●生保コンサルティングセールスの基本動作(2000年6月)
  コンサルティングセールスは、オネストビジネスとしてお客に本音で忠告するものだから、常に現実直視型のコンサルティングを実践しなければならないし、またそうでなければ成功しない。およそ学者タイプや評論家タイプで、生保のコンサルティングセールスの成功者はいない。
 端的に言って、生保販売は面談のアポを取ることから始まってクロージング、紹介獲得に至るまで、お客の決断を終始リードすることによってのみ成功する。つまり、コンサルタントが主役なのだ。

〈面談アポの取り方〉
 あくまでも面談のアポを取るために電話をかけているのであって、電話で保険を勧めてはいけない。いますぐ保険に入りたいと考えている人以外は、面談に「反対」(「あいまいな反対」=いまは関心がない、考えていない、とりあえず資料だけ送って欲しい、など。「明確な反対」=保険に入らない、知り合いが保険のセールスをしているので他には入らない、など)の意思表示をするのは当たり前のこと。
 したがって、多くの場合、この「反対」を処理しなければ話は先に進まない。基本的な切り返し話法としては、保険のお勧めではなく、面談することによって、(誰も彼もではなく)その見込客にとって有益な情報(切り口として「証券診断」「ライフプランニングサービス」「保障の経費節減策」「保障のリフォーム法」「保険選びのアドバイス」等々)を直接お話したい旨ごく手短に伝え、こちらから訪問時間を特定し(主婦か、サラリーマンか、その夫婦か、商店主か、企業経営者か、面談相手の属性により、都合がよいと思われる時間帯はあらまし分かるはず)、都合を聞く形で処理する。面談の時間を取り付けるのが目的だから、字数にして100字前後の短いセンテンスで簡潔・率直かつ自然体で話すことがポイント。お客は自分にメリットをもたらしてくれる人に関心を寄せるもので、具体的であいまいな話は嫌われる。面談時間を決めるところから、お客にゲタをあずけているようでは有効期間(話が発展する訪問)は期待できない。

〈ニード喚起〉
 人(見込客)は誰しも「家庭に対して愛情を抱いている」し、「子供に良い人生を送ってもらいたいと思っている」し、「安定を求めたい」し、「ゆとりのある人生を送りたい」し、「本人および家族の人生の夢を実現したい」と思っており、これらの気持ちが人間の基本的欲求(ニード)である。
 ところが多くの場合、現実の暮らしの中では「そのうちなんとかしよう」と物事を先に延ばしたり、「そのうちなんとかなるだろう」と成り行きにまかせたり、「将来のこと」を実現するために今なすべき対策を実行していないことから、基本的欲求と現実の生活とのはざまにおいて、漠然とした「不安」や「心配」や「悩み」などが発生し、それらの気持ちがないまぜになって人々の心の中に潜在している。これがすなわち保障に対するニード(保障ニード)であり、ほとんどの人が潜在的に抱いているのだ。
 そこで、プロフェッショナルな保険コンサルタントは、「お客と共通の用語」(見込み客の属性に応じて、サラリーマンの用語、業種の用語、経営者の用語、金融用語、地域頭語、等々)を用いて会話(一方的な商品説明でない2ウェイの対話)し、10人10色のお客の心のアヤをときほぐしながら、「将来のこと」「いまのこと」に置き直して、問題点を整理(見込客の具体的な保障ニードとその優先度を把握)し、子供の人生や老後の夢、経営者としての夢などを語り合いながら、あたかもお客の「心の中のカンバスに絵を画く」ように、1つ1つ具体的に保障ニードを顕在化させ、それをお客に「自己確認」させる。要するに、カウンセリングを行うのだ。
 この一連のプロセスがコンサルティングセールスの正に入口の基本動作である「ニード喚起」であり、生保販売の成否の9割のウェートを占めているといっても過言ではない。
 お客からすれば、保険コンサルタントは保険の説明ができて当然だし、単なる商品説明に対して特段のメリットを感ずる人はいない。同様に、パターン化された損金・節税話法や更新型定期付終身と逓減定期付終身との比較話法なども、その見込客自身の本質的な保障ニードに目を当てたものではないから、コンサルタントを特に信頼しようとは思わない。お客との「共通の用語による会話」と、それによる「共通の認識」なくしてコンサルティングセールスはできない。

〈プレゼンテーション〉
 見込客が自らの保障ニードを具体的に「確認」すると、問題点を解消しようとする欲求が湧いてくる。そこで、保険コンサルタントは「解決方法の具体的な提案」を行う。この段階がプレゼンテーションである。
 プロのコンサルタントが設計した提案は、お客が「自己確認」した保障ニードに基づく「最善の保障設計」なのであるから、お客の人生にとって間違いなく「最善の選択」なのだ。この段階では、最も誠実なライフパートナーとして、お客に対して「本音で忠告」(説得)することが肝要だ。自然体で、かつ何ら躊躇することなく、お客の人生のために問題点をズバリと本音で忠告する。
 多くのお客の最終的な迷いは、「保障額」か「保険料」のいずれかである。この段階ではあいまいなセールストークをしてはならない。問題点をはっきりさせることが重要だ。もとよりベストプランが2つも3つもあるはずもない。プロの提案が最善なのだ。ただ、不況下において、「保険料」が問題である場合、次善の策として、お客の保険料負担能力に合わせて段階的に保障設計をリフォームしていくプランの準備も必要となろう。しかし、その場合でも、お客が負担可能なプランを示しつつ、「最善の保障設計」と比較させること。お客はだれしも内心は「十分な保障を備えたい」と思っているので、よほどの保険料格差がない限り(きちんと年度別収支を計算してライフプランニングする以上、次善の策とはいえ、もとより極端な格差は生じないはず)、最終的に「本音で忠告」されたベストプランを選択するものである。 
 「本音で忠告」するための話法としては、@論理的であり、Aかつ感情に働きかけることがポイントになる。お客はその保障設計について「論理的に理解」し、「感情的に人間の基本的欲求(家族への愛情の証として必要、安定した人生を送るために必要といった購買動機)」が働くからである。ライフプランニングの手法や、そこから導き出された保障設計の「論理的」な説明にはコンサルタントによって余り差異はないが、「感情に働きかける話法(子供や老後、事業のことなどの題材)」の優劣はコンサルタント個々の感性、経験、創造力により大きな差異が生ずるものだ。
 なお、個人契約の面談は基本的に夫婦同席で行うことが望ましい。夫婦同席なら、「論理を用いて(夫)」「感情に働きかける(妻)」話法の効果が期待できることもあるが、何より、妻に購入の決定権が無い家庭の場合、いくら妻に本音で忠告し妻が納得したとしても、その妻がコンサルタントのようには「論理を用いて感情に働きかけながら」夫に本音で忠告することはできないからだ。「そのうち考えておく」という夫の一言で、クロージングのチャンスを失ってしまうことがしばしばある。


 「カレンダー赤い字の日」(話法例)

「○○さん、このプランについてずっと詳しくお話してきたわけですが、かえってこのプランに加入する本当の意味からはずれた説明になってしまったかもしれません。そこで、この話をお聞きいただければこの保険プランの意味を良くおわかりいただけるかとも思います。」
「ほら、ここにカレンダーがありますね。私もよくもらいますが、普通は日曜・祭日は赤い字、他の日は黒い字で印刷してありますね」
「ご主人が家族のために十分な資金を残さずに亡くなられると、あとに残された奥様は働きに出なければならなくなります。母子家庭で、まだ小さいお子様がいると、カレンダーの赤い字の日はママが一日中家にいる日、黒い字の日はママがお仕事に行って家にいない日、よそのおばさんと一緒にいる日とおぼえるわけです。」
「そういう事態になってから偶然知ったお宅の話なのですが、そのお宅のお子さんは毎朝『ママ、今日は赤い字の日?』と聞くのが習慣になったというのです。祭日でなければ、一週間に5、6日母親はたまらない気持ちで『ちがうのよ、今日はまだ黒い字の日・・・』と答えなければなりません。つらいことですが、その母親が、『そうよ。今日は赤い字の日だからママはずっとお家にいるのよ。』と言えるのは、一週間に一度か二度、そして数少ない祭日だけです。」
「その日だけは、その子も最高にしあわせです。ママがずっと一緒にいる、いろんなことをしてくれる。その子が一番望んでいる事ですから・・・」
「もし、そのご主人が、奥様が未亡人になられても、せめて子供さんの小さいうちだけでも一日中働く必要のないように資金を残しておけば、毎日が赤い字の日になったことでしょうに。ですから○○さん、本当はこのプランの詳細などはそれほど大切なことではないのです。大切なことは、このプランに入っているかどうかです。ご主人に万一のことがあった場合、奥様とお子様の生活がすっかり変わってしまいます。とにかく○○さん、健康診断のつもりで検査を受けてみませんか。」(プルデンシャル生命の話法例に加筆)

〈クロージング〉
 生保会社のベテラン優績者(例えば営業主任クラスの女性組織長)になると、重点月単月で約20件前後の数字を出す人もいる。このクラスは通常2〜3回の面談で8割方成約する能力を持っている。
 生保契約のクロージングのチャンスはピンポイントでやってくる。個々でお客の決断を逃すと、「また今度」となり、再度、ニード喚起の段階からやり直しになる。損保代理店が生保を売る場合、肝心要のこの段階でお客にゲタをずけて(決断を迫れないで)失敗することが多い。リピートビジネスでリスク顕在型の損保物保険の販売では、説得を積み上げて、ピンポイントで一気に決断させる手法を使う場合が余りないからだ。「遠い将来のこと」を「いま手当てしなければいけないこと」とお客が納得した(と感じた)その時点がクロージングのチャンスであり、その時にクロージングを一気に仕上げないと、お客の決心はすぐゆらいでしまうものである。生保のようにリスク潜在型で高い買い物をしたお客の心理は、加入後においてもなお、それが正しい判断であったかどうか模様ものなのであり、ましてや加入前においておやである。お客のよくいう「よく分かった。それでは今度はんこを押すから」の「今度」はないと思った方がよい。
 この段階では、お客にとって、その保障設計が「最善の選択」であることはすでに分かっているのだから、コンサルタントは自信を持って「お客の退路」を絶たなければならない。つまり、コンサルタントはこの段階では、一気に「お客に決断させてあげる」姿勢を持つことがポイントになる。
 「よく分かった」のになぜ「今度」なのか。「今度」までに何も起きないという保証もないのだから、その理由を率直に聞いて、「今度」と「いま」の間に特段の事情がないのであれば、いま決断させたほうがお客に対して誠実な態度といえる。通常、この段階まできて「明確な反対」の意志を抱く客はほとんどいないはずで、多くは最後の「気の迷い」に過ぎないのだから、「お客の手を持ってハンコを押してあげる」つもりで、あるいは「お客の背中をポンと押してあげる」つもりで、堂々とお客をリードして一気に決断させてあげること。この段階の話法の王道は、家族や従業員の生活に対する責任感を強調することである。お客が「よく分かった」ならば、間をおかずに保険金の受取人や保険料の払込方法など、申込書の記入事項を説明し、(お客にサインするところまで来ていることを暗黙のうちに知らせながら)スムースな流れの中でお客の同意を得ていくとよい。なお、契約手続き時におけるコンサルタントの「手の迷い」は、お客の「気の迷い」を誘発するので注意すること。

〈「最善の選択」の確認と紹介を獲得する〉
 お客と「共通の認識」に基づいて組み立てた保障設計が、お客にとって「最善の選択」であることを確認すること。この動作こそが、その保障設計とコンサルタントに対する「顧客満足」を確立する。お客にとって正しい判断であったことを確認しておくことで、加入後の解約や乗り換え等の「迷い」を防止できる。お客が自分で選んだ最善の保障を簡単に手放すことはしないものである。
 こうして「顧客満足」を得たお客から、4〜5人の見込み客の紹介を得る(誰でも、4〜5人の知人、友人はその場で思いつくもの)。紹介を得る場合も、それまでに聞いてきたお客の話の中から、同業者、同好者等、紹介先の範囲をある程度特定して依頼した方が、お客は思いつきやすい。お客にその場で電話して貰うのが最善だ。このように、電話アポの時間帯指定から最終段階の紹介範囲の指定まで、コンサルタントは一貫してお客に対して「主役」であらねばならない。

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模様(薄紫)