優良顧客創造型ITマーケティングの実践を!(2000年6月)
 〈ITに対応できない代理店は生き残れない〉
 プロ代理店は資産管理のコンサルタントであり、事業家であり、自らの優良市場を創造する「マーケター」でなければならない。
 先進国においては80年代までの不特定多数のユーザーを対象にしたマーケティングが終焉を迎え、個人を特定して双方向で対話する「1:1マーケティング」(ワン・ツー・ワン・マーケティング)が主流になりつつある。日本でもインターネットの拡大が顕著で、1:1マーケティングが市場を制するだろう。インターネットは、その規模はマスメディアのように広範囲にわたるが、このシステムの中身は個人と双方向で対話する1:1メディアである。
 農耕型の損保代理店は昔から、地域においてユーザーと1:1で向かい合う1:1マーケティングを実践しており、その基本動作は別段、目新しいことではない。
 ただし、冷静に考えてみると、巨大な金融・流通資本が保険・金融サービスミックス(総合口座)をインターネットやATMを使って、1:1マーケティングで顧客を囲い込むということは、地域のプロ代理もITを駆使しなければ生き残れない時代になりつつあるということだ。
 将来的に自動車保険の直販で16等級を中心に優良契約の1〜2割が既存の損保代理店の手を離れるだろうが、そうした単種目直販会社よりはるかに脅威なのは2001年4月以降の金融機関の窓販(主に年金・第3分野・損保)や流通業のATMサービス(自動車、第3分野)によるサービスミックスで、とりわけeビジネスの発展により、個人契約の単品取引主体のプロ代理店は決定的なダメージを被ることになる。
 とくに重視しなければならないのは、現在10代後半〜20代の若い世代はパソコン、携帯電話などの多様なモバイル機器を使いこなし、5年後のインターネット人口は8000万人になると見られている。日本は間もなく「読み・書き・IT」の時代になる。
 代理店もITを使いこなさなければ、生き残れないのだ。多様なモバイル端末を駆使して対面でコンサルティングすると共に、ホームページを立ち上げて24時間お客がアクセスできる体制を早急に確立しなければならない。客先でのデビットカード決済や顧客のパスワードを打ち込んでのネット決済は間もなく常識となるのだ。初回口座振替に疑問を持つような代理店は、IT時代に生き残れない。
 大手損保会社は相次ぎ銀行、生保、証券会社と連携して金融ポータルサイトを立ち上げており、消費者がサイト上の損保会社のホームページにアクセスすることで商品選択ができるシステムを構築しつつある。地域のプロ代理店がホームページを積極的に立ち上げる取り組みを行うのならば、当該消費者の最寄りの代理店のホームページに接続することで、それは代理店のビジネスチャンスの拡大につながる。しかし、代理店がITに対応できなければ損保会社のダイレクト部門ないしは直販損保会社がその受け皿となろう。民間企業の損保会社が消費者ニーズの高い金融ポータルサイトに品揃えをするのは至極当然のことで、ビジネスチャンスを掌中にするか否かは専ら代理店の自助努力による。

 〈代理店の問題は常に自らの内にある〉
まず損保代理店はインフラ面で急ぎIT化を進めると共に、日常の販売動作では多種目販売率を早急にアップし、生損保フルライン化による顧客囲い込みに全力を尽くす必要がある。

 特に、プロフェッショナルな保険コンサルタントの「付加価値」を評価できる優良顧客を確実にグリップし、かつまた優良客に育てていくようなマーケティングすなわち「優良顧客創造型マーケティング」を、徹底していかなければならない。
 ただし、いうまでもなく、今取り引きしている顧客の中だけで優良客を選別するようなスタンスを取るならば、市場は縮小再生産の方向に進むので、必ず「市場の失敗」を来すことになる。
 常に継続して、ビフォアー(事前)取り組みに注力し、新規見込み客のパイを拡大し、より大きな分母の中から次々と新しい優良客を創造し、優良客拡大再生産を進めていかなければならない。平たくいえば既存客に対する単価アップによる挙績拡大はだれでもできるが、新規の顧客数・軒数の継続的拡大はハングリー精神が続かなければ困難だ。しかし、入口の顧客数拡大のとりくみなしに、「優良顧客創造型マーケティング」は成立しないということである。大型プロ代理店ほどその実態は、欧米の水準に倍する自動車保険手数料の高さに甘えて単種目のリピート(更改主体)ビジネスに傾斜しており、新規軒数開拓にほとんど時間を使っていないのである。まずは謙虚に「脚下照顧」、自らの足下を見つめ直すことである。代理店の問題は代理店を取り巻く環境にあるのではなく、常に自らの内にある。
 〈データベースの優劣で保険会社選び〉
「優良顧客創造型マーケティング」の1例として、「データベース・マーケティング」の手法がある。この手法は、端的にいえば「双方向の対話を通して、個々の見込み客・顧客情報(属性や購買行動などのデータベース)をできる限り収集・分析し、また、見込み客・顧客が求めている価値(ニード)を適格に把握し、これにフィットした商品・サービスあるいはこれらを含めたコンサルテーションを提供するものであり、データベースの洗い替えと分析を重ねながら、将来の購買行動をも予測して、定期的なアプローチを行うもの」である。 また、データベース・マーケティングは「顧客の求めている価値」を測定すると共に、「売り手側にとっての顧客の価値(メリット)」をも測定するもので、自社にとってどの程度の優良顧客になるかを特定することから始まるマーケティングである。すなわち、「優良顧客特定型マーケティング」といってもよい。

 つまり、「優良顧客」になると特定できて、はじめて顧客単価の高いクロスセル(生損保併売)の有効なアプローチが可能になるのだ。「優良顧客」になる可能性の少ない客にいくらクロスセルのアプローチを行っても、徒労に終わるだけなのだ。
 データベース・マーケティングの目的は、双方で「価値」を求め合いながら、「よい客とのよい関係(相互に)を長期にわたって継続していくこと」である。これまで、保険代理店の顧客の位置付けに対する概念は、見込客 → 顧客 → 得意客という3段階に分けて揃えていたが、データベース・マーケティングでは5段階で優良顧客を分類している。
見込客→顧客(カスタマー)→支持客(サポーター)→擁護客(アドボケート)→パートナー(優良顧客の最高ランク)
 「支持客」とは、コンサルタントの考えや判断を常に理解し、支持してくれる得意客であり、一般的にファンとみなしてもよい。「擁護客」とは、これより一歩進んでコンサルタントの経営を支え、見守ってくれる得意客であり、いわば物心両面でのスポンサー的な位置付けとみなしてよい。最高ランクの客が「パートナー」であり、これはコンサルタントとは切っても切れない相互依存関係(共生関係)にある最上の得意客のことである。つまり、○○保険事務所の存在無くして△△会社の経営は成り立たない、反対に△△会社なくして○○保険事務所の経営も成り立たないという関係である。このように、データベース・マーケティングは、顧客の長期固定化(維持)とランクアップを意図的に進めていく手法である。損保代理店はこの様な「優良顧客創造型マーケティング」を実践するマーケターとしての機能を強化していけば、価格競争の時代においても必ず勝ち抜くだろう。
 なお、自らの顧客のデータベースは独立代理商である代理店の最大の財産であり、当然、代理店自身が名寄せして集約・管理すべきものだが、IT新時代においてはそのような古来の在るべき論はほとんど意味を持たない。端的にどの保険会社のデータベースを活用するかによって、ヒット率の高いデータベースマーケティングが実現できるかどうかの分かれ道となるわけで、そこに今後の代理店経営の浮沈がかかっているといって過言でない。いや、所在地域におけるデータベースの優劣を比較して、どの保険会社をメイン取引先に据えるべきかを判断する時代を迎えたといってよい。


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