地震災害と地震保険の要点(FP用・10年1月24日)


●第1章 地震保険制度の基礎知識
1.「大数の法則」に乗らない特殊な地震リスク
 火災保険をはじめとする一般の損害保険では、基本補償を定める普通保険約款において、地震損害については、延焼・拡大した損害または傷害を含め発生原因の如何を問わず損害保険金を支払わない(免責)とされている。その主な理由は、@損害発生の頻度・時期・場所等の不確定性、A広域かつ巨大損害の可能性、B地域や時期的な逆選択の可能性など、地震損害が保険確率の基礎となる「大数の法則」に乗りにくく、保険制度化しにくい要素を孕む特殊なリスクだからである。
世界的に最も地震発生頻度が高い環太平洋地震帯に位置する日本列島では有感地震が年間約1000回発生しているが、死傷者被害を出した被害地震の記録をみると、過去1600年間で416回、過去500年間で350回、過去100年間で121回、直近10年間では11回発生し、年平均の発生頻度は1回程度に過ぎない。地震の規模(マグニチュード)別では、M6クラス年10回、M7クラス年1回、M8クラス10年に1回程度の発生頻度である(東京天文台「理科年表07年版」)。
一方、地震損害の規模でみると、明治以降の記録で死亡者1000人を超す大規模地震は10回発生しており、1回の地震で7府(都)県の広域にわたって死者・不明者14万2807人、住家の全壊12万8266棟、全焼44万7128棟もの甚大な損害を出した関東大震災(大正12年)や、死者・不明者6437人、住家の全壊10万4906棟、全焼7036棟の損害を出した阪神淡路大震災(平成7年)といった大規模損害事例がある。
 このような経験値に照らして、地震リスクは損害の発生頻度と規模が「大数の法則」に乗りにくく、僅か1回の地震でも異常損害(キャタストロフィー・ロス)になりうるという特殊性が明らかである。ちなみに、これまで民間損害保険制度によって制約なく引き受けられている建物火災リスクを例に取れば出火件数は年間約3万3千件で、また交通事故リスクの事故件数は年間約90万件であり、いずれも損害データに「大数の法則」が働いている。
 このように、一般の損害保険では免責(火災保険の地震火災費用保険金を除く)とされている特殊な地震リスクを、国が「有事における被災者の生活の安定」を優先した特別立法措置を講じて、官民共同スキームでなんとか保険制度化したものが家計地震保険制度(地震保険)であり、これは民間保険会社の営業保険種目でありながら、加入時・査定時・支払時の各面で制限があり、支払保険金で原状回復できないという根本的な制約が今後とも続くであろう唯一の損害保険と言える。

2.地震保険創設までの歩み
 古くは明治初期の火災・地震・風水害等を補償しようとした国営強制保険制度案や、大正12年の関東大震災後に発案された商工省による地震保険制度要綱案などの試案のほか、戦時中の震災時における民生安定と治安維持を趣旨として昭和19・20年の2年間弱実施された地震保険制度など、地震リスクの保険化を図るいくつかの試みがみられた。また、関東大震災で火災保険金請求運動が巻き起こり、結果的に損保会社は政府から借金をして巨額の見舞金を支払った経緯もある(後に昭和59年、火災保険の純保険料水準維持のために行なわれた自然災害担保範囲拡張に際して、大蔵省の行政指導による地震火災費用保険金創設の論拠になったとされる)。
 戦後、昭和23年に発生した福井地震を契機に、大蔵省・損保業界ともども政府出資または政府再保険を前提として、火災保険に付帯する地震保険制度の基礎的な研究を行なった。家計用より一足先に、損保会社は企業用火災保険で昭和31年に地震危険担保特約(地震拡張担保特約)を創設し、主に一定割合で保険金を削減払いする縮小填補方式(コインシュアランスクローズ)により、地震による建物・設備等の焼損や損壊を補償し、企業の保険需要に対応した(現在の引受概要は後述)。
昭和39年に発生した新潟地震に際して、地元の田中角栄当時大蔵大臣(若い頃、保険業界誌での勤務経験があり業界事情に知悉していたとされる)のツルの一声で、保険業法一部改正に合わせて「速やかな地震保険制度確立」に向けた国会付帯決議が行なわれ、損保協会で地震保険制度の創設が決議された。昭和41年に「地震保険に関する法律」「地震再保険特別会計法」が施行され、保険制度の具体的な内容を法定したうえで、政府による地震再保険制度(民間負担部分を超える損害に対する超過損害再保険方式)を後ろ盾として、官民共同スキームによる地震保険制度がスタートした。
 加入者の逆選択を防止し、かつ付加保険料水準を抑えるため、火災保険に地震保険を付帯する仕組みとした。加入者の保険料負担と支払額のキャパシティーを勘案して、まずは住宅・店舗総合保険に自動付帯する方式でスタートした(昭和55年に家計用火災保険全種目に原則自動付帯となった)。創設時の主な制度内容は、@地震・噴火またはこれらによる津波の損害に対して全損のみ補償、A保険の対象は居住用建物と家財で、地震保険金額は主契約の火災保険金額の30%(建物90万円・家財60万円限度)、B1回の地震等による総支払限度額は3000億円――というもの。

3.地震保険の概要

 現在の地震保険の概要は下記の通り。
(1)保険の対象:居住用建物(全部または一部居住用のもの。店舗併用住宅を含む)と家財(家具・什器・衣類など生活用動産)。事務所・店舗専用の建物などは地震保険の対象にならない。また、通貨、有価証券、預貯金証書、印紙、切手、自動車、預貯金証書、1個または1組の価額が30万円をこえる貴金属・宝石・書画・骨とう・美術品、帳簿、証書、稿本、設計書、図案類、商品、営業用什器・備品類は生活用動産には含まれない。

(2)加入方法:地震保険契約は、居住用建物または家財(一式)を保険の対象とする住まいの火災保険(主契約)に原則自動付帯される。加入者が地震保険の付帯を希望しない場合は、保険契約申込書の「地震保険確認欄=地震保険は申込まない」に捺印して付帯しない意志を明示する仕組み。主契約の保険期間の範囲内で地震保険を中途付帯することもできる。なお、政府により、大規模地震対策特別措置法に基づく地震災害に関する警戒宣言が発せられたときは、同警戒宣言が解除されるまでの間は当該宣言対象地域での新たな地震保険の契約はできない。

(3)契約金額:地震保険の保険金額は主契約の火災保険金額の30%〜50%の範囲内で設定する。地震保険金額の限度額は建物5,000万円、家財1,000万円(他に契約がある場合は合算)。戸建て建物のほか、分譲マンションの区分所有(専有)部分、賃貸マンション居住者の家財についても加入方法や契約金額の取扱は同じ。
なお、賃貸マンションなど区分所有建物でない共同住宅や長屋造りの建物の場合は、「居住世帯の戸室数×5000万円」が建物全体の地震保険金額の限度額となる。また、区分所有建物で専有部分と共有部分に地震保険を一括付保する場合は、専有部分と共有持ち分部分を合算した火災保険金額の30〜50%の範囲内で地震保険金額を設定する。区分所有建物で管理組合などが建物共用部分に地震保険を一括付保する場合は、各区分所有者ごとに「共用部分火災保険金額×共有持ち分割合(区分所有者ごとの専有部分床面積/建物全体の専有部分床面積)×30〜50%」の算式で計算し、合計した金額を地震保険金額とする(ただし、区分所有者ごとに、専有部分の地震保険付保額と合算して5000万円が限度)。
主契約の火災保険金額は時価または再築価額を限度に設定するが、それに付帯される地震保険金額は火災保険金額の上限50%までしか掛けられないため、地震災害で地震保険金が全額支払われたとしても元と同じ経済価値の家を建て直すことはできないという制度上の制約がある。この制約がまた、加入者の地震保険料負担と相まって地震保険の普及を妨げる要因となっている。

 (4)補償する損害:地震・噴火またはこれらによる津波を直接または間接の原因とする火災、損壊、埋没、流出などによって保険の対象に生じた損害で、かつ損害の程度が全損・半損・一部損となった場合。
具体的な損害形態としては、地震火災による焼損や地震の揺れによる損壊のほか、地盤の液状化による損壊、崖崩れや土石流による損壊・埋没・流出、河川の決壊やせき止めによる浸水・損壊・流出、噴火に伴う火砕流・溶岩流・土石流や火山灰等の噴出物による焼損・損壊・埋没・流出、地震や噴火に起因する津波による浸水・流出・損壊などの損害を補償する。

(5)損害認定基準と保険金支払方法:地震等により、保険の対象が損害を被った場合、下記の「全損」「半損」「一部損」の3パターンで損害認定し、「全損」の場合は地震保険金額の全額、「半損」の場合は同50%相当額、「一部損」の場合は同5%相当額の保険金が支払われる(3パターンの保険金支払方法は建物・家財とも同じ)。地震保険に加入していても「一部損」に至らない損害の場合、保険金は支払われない(無責)。
広域地震災害時における被災者の生活再建を優先して、迅速・公平な保険金支払を前提とし、保険の対象の損害認定にあたっては損保業界統一のパターン化された損害査定基準を策定している。具体的には、建物の主要部分における物理的損傷割合(主要構造部、床面積、地滑り等の災害、床上浸水等に関わる認定基準がある)や家財の特定品目の損傷割合などに査定対象を限定して調査し、それをもとに時価額に対する損害額の割合=損害割合を算定して、「全損」「半損」「一部損」の3パターンの枠内で保険金を支払う(火災保険における風水害の査定処理とは相違する点)。したがって、地震保険の対象物であっても、損害認定基準で定める査定対象とならない部分に発生した損害については損害割合にカウントされず、結果、保険金支払に反映されないことになる。
通常、損害評価を行なう鑑定人と査定社員が被災現場に同行して被災物件の損害査定処理業務を集中的に行ない、保険金請求を受理する。
 @「全損」となる損害割合
 ▽建物:主要構造部=木造・在来軸組工法の場合は軸組(柱など)、基礎(布コンクリート)、屋根、外壁の4項目。木造・枠組壁工法の場合は外壁、内壁、基礎、屋根の4項目。鉄筋コンクリート造の場合は1棟の建物全体と柱、梁、外壁など=の損害割合が50%以上になった場合。または、焼失・流失した部分の床面積がその建物の延床面積の70%以上になった場合。地滑りや崖崩れなどで急迫した危険が発生し、居住不能となった場合。
 ▽家財:損害割合が80%以上となった場合。通常、家財一式で契約するが、広域震災の際に鍋釜、家電製品から衣類まで1つ1つの家財の損傷状況を判定していたのでは、損害認定作業が進捗できないことになる。そこで、家財の損害認定基準では家財を「食器陶器類」「電気器具類」「家具類」「身回品その他」「衣類寝具類」の5つの分野に分類し、その中で一般的な家庭で所有されていると考えられるものを代表品目として定め、その損害割合を判定する。例えば「食器陶器類」なら食器・調理用具など5種類、「電気器具類」ならテレビ・冷蔵庫、洗濯機・電子レンジ・パソコンなど8種類、「家具類」なら食器戸棚・タンス・机・イスなど5種類、「身の回り品」なら靴・鞄・書籍・カメラ・眼鏡など10種類の代表品目についていくつ損傷があるかを数え、また、衣類寝具類についてはその収容物の損傷状態を調査して、5つの分野ごとの損害割合を合計して、家財全体の損害割合を算出する。
A「半損」となる損害割合
▽建物:主要構造部の損害割合が20%以上50%未満の場合。または、焼失・流失した床面積が20%以上70%未満の場合。
▽家財:損害割合が30%以上80%未満の場合。
B「一部損」となる損害割合
▽建物:主要構造部の損害割合が3%以上20%未満の場合。また、地震等による水災で床上浸水または地面から45pを超える浸水損害を被った場合。
▽家財:損害割合が10%以上30%未満の場合。
※損害割合が上記の「全損」「半損」「一部損」「一部損に至らない無責」のボーダーライン上にあるようなケースや、建物の査定対象となる主要構造部にさほどの損傷はないがそれ以外の基本構造部(例えば木造・在来軸組工法の場合は内壁・床組)に大きな損傷があるようなケースでは、補完的に第2次査定も行なう(同上事例では、基礎・屋根・外壁の損害割合に、軸組+内壁+床組の損害割合を加えて合計損害割合を算定する)。
 
(6)再保険制度と総支払限度額
一般の損害保険は単年度もしくは短期間での保険収支を均衡させるべく運営するが、発生頻度が低い一方、巨大損害となりうる地震リスクは、超長期の保険収支を計る中でリスクの平準化に取り組む必要がある。とくに特別立法による公共性の高い地震保険制度は、自賠責保険ともども「ノーロス・ノープロフィット」(期間損益ゼロ)の会計原則で運営され、長期間で保険収支を均衡させている(保険料から保険金・必要経費を控除した事業収益・運用収益のすべてを責任準備金に積み立てている)。また、巨大損害の支払を民間保険会社だけで行なうことは困難であることから、補償内容に制限を設けつつ、官民共同の再保険制度を後ろ盾にして運営している。
地震保険の再保険スキームは、@損保会社と日本地震再保険会社(地再社)との間で再保険契約(A特約)を締結し、損保会社は地震保険契約の保険責任の全額を地再社に再保険する。A地再社はA特約で損保会社から引き受けた保険責任の一部を政府に再々保険(地震保険超過損害額再保険契約=C契約)する。B一方、地再社は各損保会社と個別に再保険契約(B特約)を締結し、政府に出再した保険責任の残りの一部を損保会社に再々保険し、リスク分散する仕組み。
この再保険スキームにより、1回の地震(72時間以内に発生した複数の地震)による支払額を政府と民間が分担する。現在、1回の地震による総支払限度額は5兆5000億円(政府負担枠4兆3915億円、民間負担枠1兆1085億円)で、支払額1100億円までは民間100%、1100億円超〜1兆7300億円まで政府・民間各50%、1兆7300億円超〜5兆5000億円まで政府95%・民間5%の負担割合となる。1回の地震による総支払限度額は関東大震災級の巨大損害が発生した場合でも保険金支払が可能な前提で設定されているが、仮に支払額が総支払限度額を超える場合は、支払うべき保険金総額に対する総支払限度額の割合で個々の支払保険金が削減される。

(7)地震保険料率と保険料割引制度など
料率算出団体法に基づく損害保険料率算出機構が地震保険の基準料率を算出し、補償内容ともども損保各社共通して適用している。基準料率は、建物構造別と等地別に算定された基本料率に割引率や長期契約係数を適用したもの。
居住または家財を収容する建物の構造別は「木造」と「非木造」(鉄筋コンクリート造・鉄骨造など)の2本立てで、損壊・焼失危険の高い木造建物が約2倍高い。契約の所在する等地別の区分は、地震危険度(予測損害)の低い1等地から最も高い4等地までの4区分で、同じ木造建物でも4等地の契約は1等地より約3倍高い水準(表)。
建物の耐震性能に応じて、「免震建築物割引」(住宅性能評価書により免震建築物と評価された場合:30%割引)、「耐震等級割引」(住宅性能評価書や耐震性能評価書で耐震等級が評価された場合:耐震等級により10・20・30%割引)、「耐震診断割引」(耐震診断や耐震改修により現行耐震基準と同等の耐震性能が確認できた場合:10%割引)、「建築年割引」(昭和56年6月以降に新築した場合:10%割引)の4種類の割引制度があり、建物・家財の基本料率が割引される(重複適用されない)。長期契約(最長5年)にかかる長期係数は1年契約に対して、2年1.90、3年2.75、4年3.60、5年4.45と、長期の契約ほど割り引かれる。
 なお、損害保険料率算出機構は地震保険の純保険料率算出に用いる損害データを従来の理科年表ベースから、政府・地震調査研究推進本部公表の「確率論的地震動予測地図」に基づく震源情報に変更するなどして新しい損害予測手法に改めた結果、平成19年10月に等地区分の内容変更を含め基準料率が全面的に改定(最大で木造57%下げ、非木造63%下げ、平均7.7%引き下げ)された。今後とも地震損害予測に対する科学的手法の発達に伴い、より妥当な料率水準に接近していくことになろう。
 地震保険料については、従来の損害保険料控除制度(廃止)の振り替わり措置として、所得税5万円・住民税2万5000円までの地震保険料控除制度が適用される。

4.地震保険の普及状況と利用効果
 平成20年度末の地震保険保有契約件数は対前年度比5.6%増の1184万1278件で、過去15年間右肩上がりに増加し続けている。地域別にみると、契約量は東京184万件(3.9%増)、神奈川108万件(3.6%増)、愛知96万件(5.9%増)大阪91万件(6.2%増)と大都市部が多く、岩手、山形、富山、石川、福井、長野、岐阜、滋賀、佐賀、長崎の10県が2桁増の伸びとなっている。兵庫41万件(8.8%増)、福岡54万件(7.8%増)の高い増加ペースも含めると、相対的に地震リスクの高い大都市部や過去大きな地震が発生した地域を中心に普及していることが分かる。
 世帯加入率の推移をみると、平成10年度14.8%から19年度21.4%と10年間で6.6ポイント上昇し、地震・噴火リスクの認知度が高い宮城、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、岐阜、静岡、愛知、三重、大阪、広島、徳島、香川、高知、福岡、熊本の17都府県で20%を超えている。ただし、地震保険は住宅物件の火災保険に付帯されるものであり、粗い世帯普及率ではなく、火災保険への付帯率で普及度合を捉える必要がある(表)。最近5年間の付帯率の推移をみると、平成14年度33.3%から19年度44.0%約10ポイント上昇し、現在は住まいの火災保険加入者の半数弱が地震保険を付帯している。付帯率が5割を超えている地域は、宮城、山梨、岐阜、愛知、三重、広島、徳島、高知、宮崎、鹿児島の10県で、中でも高知県では72.2%もの高い付帯率となっており、プレート型大地震が予測されている東南海地震の被災予想地域を中心に付帯率が高まっていることが分かる。
 ただし、新契約の保険金額では、建物が400万円超600万円までの範囲、家財では100万円超300万円までの範囲が最も多く、生活再建資金として十分な水準とは言い難い。
 平成19年度の地域・目的・構造別の地震保険金額の分布をみると、東京が建物・木造3兆6392億円、家財・木造9551億円、神奈川は建物・木造2兆9515億円、家財・木造6739億円で、仮に関東大震災級の最大予想損害額(マキシマムロス)を想定した場合でも、すべて全損になるわけではないから現在の総支払限度枠5兆5000億円凌げるものと思われるが、プレート型の東南海・東海大地震が連動するようなケースをも想定すれば、総支払限度額のさらなる拡大が急務となる。
 利用者にとって現行地震保険制度は、火災保険料と地震保険料を負担して地震保険を付帯しても、火災保険金額の50%までしか地震保険金額が設定できないため、全損認定で地震保険金が全額支払われても、言わば元の建物の半分の価値のものしか立て直せないという根本的なネックがある。火災保険金額に対する地震保険金額の付保割合が6割〜7割へと拡大されるならば損害保険本来の原状回復性能が高まるが、保険料負担増と総支払限度額の拡大が必要になる。滅多に起きない巨大損害の際の削減払には国民的合意が得られるとの割り切りが可能ならば、小中規模損害時における原状回復性能を高めることを重視するという選択肢もあろう。
 原状回復できない地震保険金は、現実の使途としては地震後の仮住まい費用や当座の生活費など「災害時の生活再建のための立ち上がり資金」に充当されることになる。現状の制度では保険需要は自ずと限定され、預貯金などの手持ち資産に余裕の無い人や、現在の建物の住宅ローンの返済期間が長く残っていて、震災後に建て直す建物のローンと2重ローンになってしまう懸念のある人にとっては、集団的預貯金としての地震保険は有効なリスクファイナンスになる。

 5.地震損害を補償するその他の保険
 住宅物件の火災保険では、地震等による火災で建物が半焼以上・家財が全焼となった場合、火災保険金額の5%(300万円限度)の地震火災費用保険金が支払われる(損壊等の損害または建物倒壊後の火災を除く)。個別会社の商品で、「地震火災担保特約」により火災保険金額の30%または50%(選択)を支払うものもある。なお、前述の経緯の通り、事後の見舞金を費用保険化した地震火災費用保険金には、@火災保険では地震損害は補償されないという保険常識が曖昧になり(火災見舞金のみ自動付帯化された)、地震保険の普及向上の妨げになっている、A本来性能以外の見舞い費用などは縮小整理すべきといった問題指摘もかねてある。そのほかの家計用商品では、個別会社の商品で地震保険の上乗せ補償を行なうものもあるが、一部の大型専業(専属プロ代理店)チャネルが優良顧客向けに引き受けており、一般的な商品とは言えない。また、少額短期保険業者が地震損害の補償にアプローチしている事例もあるが、補償性能や引受キャパシティを含め相当程度長期的な観察を要すると思われる。
 家計用火災保険の料率自由化以降、火災保険商品の個別化・多様化が進んでおり、金融工学的なアプローチも含めて地震損害の保険化や証券化に対する取り組みが広がるだろうが、官民共同運営する現行地震保険に替わる普遍的な新制度が当面出現するとは思えない。

6.企業用火災保険地震危険担保特約の概要
 政府再保険を後ろ盾とする家計用地震保険とは異なり、企業の地震損害については個別損保会社が再保険マーケット活用しながら、企業用火災保険に付帯する地震危険担保特約条項(通称:地震拡張担保)で事業用財産の火災・損壊等の損害に対して一定の補償を行なっている。引受方式は、「支払限度額方式」または「縮小支払方式」があり、実際の損害額に対して一定の制限を設けて引き受けている。保険期間は火災保険の期間内で1年。保険料は引受金額、所在地、建物構造(級別・免震性能・建築年など)、免責金額等の要素によって算出する。
 再保険マーケットの動向に連動して、おおむね既契約先企業を主体に慎重な引受スタンスを取っている。通常、引受の可否判断は本社で行なう。地震発生リスクや集積リスクの大きい東京、千葉、神奈川、静岡、愛知などの地域に所在する物件では限定的な引受となっている。最近の自然災害の増大基調や金融危機の影響で主要再保険会社の経営環境は厳しく、今後、地震拡張担保にかかる料率引き上げが予測される。
※参考文献・出典:損害保険料率算出機構「日本の地震保険・平成20年4月版」、東京天文台「理科年表07年版」、宇佐美龍夫「新編日本被害地震総覧」ほか。

第2章 地震保険の補償事例Q&A
<木造モルタル塗り2階建ての戸建て建物に火災保険2000万円・地震保険1000万円掛けているケース>
Q1:大きな地震にみまわれ、1階部分の柱数本が破損、外壁のほとんどに亀裂が入った。地震発生から4日後、保険会社が鑑定に来て「半損」の損害認定と説明されたが、納得がいかず、保険金請求書類に捺印しなかった。その後保険会社から何回か請求を起すように催促されたが、時間が経ったらもっと壊れるかもしれないと放置しておいた。地震発生から2週間後、自然に建物が崩れて全壊した。このケースで受け取れる保険金はいくらか?
A:地震保険約款で、第1回目の地震発生後の翌日から10日を経過した損害は補償しないと定めてある。地震発生後10日間もの期間を経過すれば当該地震損害は確定するものと考えられ、地震による損害と自然な瑕疵との因果関係を明確に線引きするために規定してある。このケースでは、加入者が保険金請求すれば地震発生後10日以内の損害として認定されている「半損」の地震保険金額×50%=500万円が支払われるが、10日を超えて発生した自然倒壊による損害は補償されない。ただし、通常は保険会社が請求督促に際して、有責期間の説明を行なうはず。

Q2:地震で家が壊れ、翌日、現場調査に来た鑑定人に「半損」と認定されたので、その場で保険金請求書に捺印し、請求した。ところが、地震発生から2週間後の余震で、建物が全壊してしまった。このケースで受け取れる保険金はいくらか?
A:「全損」の場合は、地震保険契約は全損失効(当該保険金支払の原因となった損害が生じた時に契約終了)するが、損害が「全損」に至らない場合は有効に継続し、保険金額は減額されないと約款に規定されている(保険金額の自動復元)。
 まず地震保険では72時間以内に何回地震が起きても1回の地震とカウントする。仮に1日目の本震で「半損」、2日目の余震で「全損」状態になった場合は「全損」の認定となり、地震保険金額の全額1000万円が支払われる。
 質問のケースでは、火災保険金額が時価額いっぱいの2000万円で、1回目の地震で「半損」(主要構造部の損害割合40%と仮定する)となり、地震保険金額1000万円×50%=500万円が受け取れる。1回目の地震の損害により建物の時価額は1200万円に減額しているが、地震保険契約は「全損」ではないので保険金額1000万円でそのまま継続しており、1回目の地震から10日を超えて2週間後に発生した2回目の損害は次の地震(余震)によるものだから、残りの部分が全壊し「全損」認定となれば、地震保険金1000万円が支払われる。
 ただし、地震保険の「半損」(建物の主要構造部の損傷に基づく損害割合20〜50%未満)損害後の建物の時価額が必ずしも50%以上残るとは限らず、地震保険金額が時価額を上回る結果となった場合には、その時点の時価額を限度に保険金(「全損」の場合は時価額の100%)が支払われる。

Q3:夜中に大きな地震が発生した。幸いとくに被害もなかったが、揺れが収まった翌日、なんと近所で火災が発生し、あっというまに自宅に燃え移り全焼してしまった。このケースで受け取れる保険金はいくらか?
A:地震損害については、火災保険約款で延焼・拡大した損害または傷害を含め発生原因の如何を問わず損害保険金を支払わないと規定されているので、火災保険金2000万円は支払われない。火災保険で地震火災費用保険金として火災保険金額の5%・100万円と、地震保険から「全損」の地震保険金1000万円が支払われる。
地震が起きたあとのたき火や通電によるショートで出火し延焼したような、いわゆる2次火災についても「発生原因の如何を問わず」地震による火災損害には火災保険金は支払われない。この免責規定は、@地震が発生した地域では道路の損壊や建物の倒壊等により、通常の消火活動が困難になることから、地震により延焼・拡大した火災損害は保険で補償すべき偶然な損失にはあたらない、A火災保険では地震損害を担保しておらず、火災保険料には地震損害の補償を織り込んで算出していない――などの理由で適用されている。
ただし、過去の2次火災被害では多くの保険金請求訴訟が提訴され、裁判では多様な解釈が行なわれてきたのも事実である。実際に、「延焼・拡大した損害」とは言えない火元の1軒分の火災損害を捉えた場合、地震地域と平常な地域とにかかわらず消火活動が間に合わなくて家1軒が焼け落ちてしまうケースはあり得るわけで、十把一絡げで地震火災損害を無責とするのは妥当ではないという解釈もある。なお、地震災害は不可抗力であり、火元の家からは損害賠償してもらえない。

Q4:地震で建物のガラス窓が割れてしまった。おそるおそる外に出てみたら、なんと塀や門も倒れていた。このケースで受け取れる保険金はいくらか?
A:保険金は支払われない。木造・在来軸組工法の建物の場合、地震保険の損害認定の対象となる主要構造部は軸組(柱)、基礎(布コンクリート)、屋根、外壁の4項目に限定されている。ガラス窓も塀や門も地震保険の対象となる建物および付属物に含まれているが、地震保険の損害認定の対象となる主要構造部に損害が発生していない場合は無責損害となるため。

Q5:大きな地震の割には、建物には見た目さほどの被害がなかったが、役場の人が来て調べたら柱60本のうち30本に3度以上の傾きがあると言われた。このケースで受け取れる保険金はいくらか?
A:実際は柱だけ損傷するケースというのは考えにくいが、柱に3度以上の傾きやひび割れが発生している場合は、建物の骨組みとなる軸組の機能が保持できない物理的な損傷と評価される。このケースの場合、軸組の損傷割合は60本のうち30本で50%となる。地震保険の損害認定基準では、軸組の損傷割合が40%を超える場合には「全損」の認定となっており、他の主要構造部に損害がなくてもこれだけで全損となり、地震保険金額の100%・1000万円が支払われる。また、仮に柱60本のうち、4本〜23本が損傷している場合、軸組部分の損傷割合は6.7%〜38.4%、建物全体での損害割合は20%〜45%となり、他の主要構造部の損害がなくとも半損となる。同様に、柱60本のうち1本〜3本が損傷している場合は、軸組部分の損傷割合は1.7%〜5%で、建物全体での損害割合は8〜13%となり、他の主要構造部の損害がなくとも一部損となる。なお、基礎に50%以上の損傷がある場合もそれだけで全損となる。
 ちなみに、地震保険の損害認定は業界統一基準で行なわれるため、物件の所在地、保険会社や担当者によって損害査定の内容や認定の仕方が異なることはない。

Q6:地震で崖崩れが起きたが、幸い新築したばかりのわが家には全く被害がなかった。ただ、役場の人から、このまま住み続けるのは危険だと言われた。この場合、建物にはまったく被害がないが、地震保険金は受け取れるのだろうか?
A:地震保険金額の100%・1000万円が支払われる。地震保険の損害認定基準では、このように崖崩れなどの危険が建物に迫っていて、客観的に住み続ける見込がないと認定された場合、その建物を全損とみなす。

Q7:地震で出来たせき止め湖の土手が崩れて建物が水没した。地震保険で補償されるか?
A:建物の主要構造部の損害の程度により、「全損」「半損」「一部損」となった場合に保険金が支払われる。なお、床上浸水(居住の用に供する部分の床をこえる浸水)となった場合は、主要構造部の損害の程度が一部損に至らない場合も、一部損とみなされ保険金が支払われる。

Q8:地震で自宅の塀が壊れて、通行人に怪我をさせてしまった。この場合、治療費などは地震保険で補償されるか?
A:地震保険の対象となるのは居住用建物とその家財であり、第三者への賠償損害や身体のケガなどは地震保険の対象にはならない。ちなみに、地震の際に塀や建物が壊れるのは不可抗力であり、通常、損害賠償責任は発生しない。

<鉄骨コンクリート造りのマンション居室(専有部分)に火災保険2000万円、地震保険1000万円、家財に火災保険1000万円、地震保険500万円を掛けているケース>
Q1:10階建てマンションの8階の居室に地震保険を掛けているが、大地震で1階ピロティ部分がつぶれてしまった(層崩壊)。自分の居室にはまったく被害がないが、このケースで地震保険金は受け取れるか?
A:居室に掛けている地震保険金額の100%・1000万円が支払われる。鉄筋コンクリート造など耐火構造のマンション建物の場合、損害認定基準では、@専有部分を含む建物全体の傾斜や沈下の状態で損害を認定する、Aただし、専有部分を構成する床、天井、内壁、間仕切壁等の主要部分の損害の程度が建物全体の損害より高い場合は、専有部分の損害の程度で認定する――こととなっている。このケースではマンションが層崩壊しており、建物全体の立て直しが必要になるので、居室についても「全損」の認定になり、1000万円が支払われる。

Q2:家財一式で地震保険を掛けているが、長年買いそろえた食器、電気製品、家具、衣類類などたくさんある。地震で壊れたり焼けたりしたとき、一体どうやって査定するのか?
A:地震で家財が焼けたり壊れたりした時に、コップ、茶碗、衣類など家の中にある1つ1つの家財全部の損害状況を判定するのでは、広域災害の地震では損害認定作業が困難になる。そこで、家財の損害認定基準では、1つ1つの家財の損傷状況を見るのではなく、家財を大きく、@食器陶器類、A電気器具類、B家具類、C身回品その他、D衣類寝具類の5つの分野に分類して、その損害割合を算定して、家財全体の損害割合を認定する。
 具体的には、この5つの分野の中で、一般的に家庭で所有されていると考えられる代表的な品目、例えば「食器陶器類」なら食器、調理用具など5種類、「電気器具類」ならテレビ、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、パソコンなど8種類、「家具類」なら食器戸棚、タンス、机・イスなど5種類、「身の回り品」なら靴、鞄、書籍、カメラ、眼鏡など10種類の代表品目についていくつ損傷があるかを数え、また、衣類寝具類についてはその収容物がどれだけ損傷しているかを見て、食器陶器類の損害割合が何%、電気器具類の損害割合が何%、家具類の損害割合が何%と算定し、5つの分野の損害割合を合計して、家財全体の損害割合を算出し、「全損」「半損」「一部損」の認定を行う仕組み。
 例えば、代表品目のうち、テレビ・電子レンジ・パソコンに損害があれば電気器具類の損害割合は7.5%、タンスに損害があれば家具類の損害割合は4%で、合計して家財全体の損害割合は11.5%となり、「一部損」の認定となる。また、代表品目のうち、食器、陶器置物、食料品、調理用具、漆器に損害があれば食器陶器類の損害割合は5%、ステレオ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機に損害があれば電気器具類の損害割合は10%、食器戸棚、机に損害があれば家具類の損害割合は8%、衣類寝具類の損害率が50%であれば損害割合は15%で、合計して家財全体の損害割合は38%となり、「半損」の認定となる。
 さらに、代表品目のうち、食器、陶器置物、食料品、調理用具、漆器に損害があれば食器陶器類の損害割合は5%、電子レンジ、ステレオ、パソコン、テレビ、ファンヒーター、冷蔵庫、洗濯機、掃除機に損害があれば電気器具類の損害割合は20%、食器戸棚、タンス、サイドボード、机、食堂セットに損害があれば家具類の損害割合は20%、カメラ、メガネ類、書籍、CD、人形、鞄、靴、スポーツ用品に損害があれば身回品その他の損害は20%、衣類寝具類の損害率が80%であれば損害割合は24%で、合計して家財全体の損害割合は89%となり、「全損」の認定となる。
※衣類寝具類は1枚1枚の損傷や代表品目の損傷状態をみるのではなく、それを収容している例えばタンスが倒壊したり押し入れが損壊して収容している衣類寝具類が汚れてしまっている場合、その収容物単位にカウントしてこれらの衣類寝具類全体に占める損害率(損傷割合)に応じて時価に対する損害額の割合(損害割合)を算定する仕組みです。(衣類寝具類の査定基準の中に、収容物の損害率に対応する衣類寝具類の損害割合についての算定テーブルがある)

Q3:婚約した彼女に贈るため、貯金をはたいて100万円の誕生石の指輪を購入し、枕元に置いていた。夜中に地震で飛び起きたら、壁に立てかけてあったサーフボードが倒れて枕元の婚約指輪を直撃、大切な婚約指輪がつぶれていた。壊れた婚約指輪の保険金は受け取れるか?
A:地震保険金は支払われない。被災者の生活を建て直すことを目的としている地震保険では、1個・1組で30万円を超える貴金属製品などは家財に掛けた地震保険の対象からは除かれている。

<その他の相談事例の多いケース>
Q1:商店の店舗に地震保険を掛けられるのか?
A:その店舗が併用住宅の場合は、地震保険を掛けることができる。併用住宅とは、その建物が「居住の用に供する建物」か否かで判断する。「居住の用に供する建物」とは、その全部または一部において、生活の本拠として世帯が営まれている等の建物を意味する。通常、1階が店舗で2階が住居部分といったケースでは、地震保険に加入できる。一方、住居部分の無い建物については、地震保険に加入できない。住居部分の無い専用店舗の場合は、火災保険に「地震危険担保特約」(拡張担保特約)を付帯することになるが、物件の危険度に応じて、引受可否・引受条件等を各保険会社が個別に判断する。

Q2:医療保険(医療単独商品と医療特約)では、地震による死亡給付金、災害・入院給付金の取扱いはどうなるか?
A:約定された保険金・給付金が支払われると考えてよい。生命保険会社の約款では多くの場合、地震災害を含む災害関係の給付において、地震による保険事故を免責とする規定はない。ただし、給付金の支払事由に該当した被保険者の数の増加が、保険料計算の基礎に影響を及ぼす場合に限定して削減払を行うことがあると規定している。なお、阪神淡路大震災など過去の大地震において削減払の規定が適用されたことはない。
「月刊KINZAI Financial Plan」09年9月号掲載稿「地震災害と保険」より) 

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