●生保の予定利率が引き下げられるとどうなる?(2001年6月)


●生保の予定利率とは
 契約者が払い込む保険料(掛金)は、@保障に充当される部分(純保険料)と、A保険会社の経費に充当される部分(付加保険料)で構成されています。保障に充当される純保険料は、B毎年度の保険金支払いに充てられる部分(危険保険料)と、C将来の保険金支払いのための積み立てに充てられる部分(蓄積保険料)に分けられます。保険会社は将来の保険金支払いの原資となる蓄積保険料をあらかじめ定めた利率=予定利率で運用することを契約者に約束しており、その見込まれる運用収益を差し引いて保険料を算出します。つまり、予定利率で保険料を割り引く仕組みで、端的に予定利率とは保険料の割引率を意味します。同一の保険種類・契約条件で同じ保障額ならば、予定利率が高ければ保険料は安くなり、予定利率が低ければ保険料は高くなります。
 今年4月以降の新規契約から、生保の予定利率が引き下げられ、保険料が値上げされました。これは、法律(保険業法の標準責任準備金制度)上の法定利率が従来の2%から1・5%に引き下げられたためで、郵便局の簡易保険も7月から同水準に引き下げられる見通しです。この法定利率を目安にして生保各社がそれぞれ個別の判断で予定利率を引き下げましたが、蓄積保険料のウェートが大きい個人年金保険、養老保険、終身保険などの貯蓄型の保険いずれも値上げとなり、定期保険や定期保険特約の付加倍率が高い定期付終身保険などの保障型の保険は経費部分の保険料調整も相まってわずかな値上げないし据え置きとなっています。
 今回の改定では各社の適用予定利率にかなりバラツキがあり、生保の価格競争が本格化しています。例えば、現在主力の5年ごと利差配当付生命保険の保険料月払い契約でみると、従来おおむね2・15%で横並びだったものが、同じ国内生保会社でも、例えば日本生命、第一生命、住友生命などが1・65%で並んだほかは、大同生命が2・15%で据え置き、ソニー生命が1・85%、東京海上あんしん生命が1・75%、その他損保系生保会社が1・65%などと、大きな格差がみられます。もちろん加入後の利差配当による精算を勘案して比較しなければなりませんが、単純に加入時点だけでみれば、今回の予定利率改定でおよそ1〜2割の価格格差が生じています。
 通常、予定利率は保険期間を通じて一定で、したがって、保険料も払込期間を通じて一定です。ざっくりいえば、配当は約束されていないので加入時点の適用予定利率(保険証券に記載されていないので保険会社に確認すること)により損得勘定が分かれます。過去の予定利率の推移をみると、昭和51年3月〜平成5年3月末まで5%以上、平成6年3月末まで4%以上で、この時期に加入した人はいまの水準に比べて大変割安な買い物をしたことになります。とくに貯蓄型保険は実に有利な買い物が出来たわけで、解約や乗換はしないことです。
 一方、超低金利で予定利率が低い現在、個人年金保険や終身保険といった貯蓄型保険に加入すると、従来より割高な買い物となってしまうため、金利選好意識の高い層の生保離れが加速しています。生保各社はこれに対応して、積立利率(予定利率)変動型の個人年金保険・終身保険を品揃えしています。これは保険期間中、一定期間ごとに金利水準に合わせて予定利率を変更(最低保証あり)する仕組みで、保険料は一定で年金額や保険金額が増減します。将来の金利上昇→予定利率アップによる年金額・保険金額の増加が見込めるものです。
 ●既契約の予定利率引き下げとは
 現在の国内生保会社の保有契約の平均予定利率は3%台の後半で、運用利回りは2%台の前半です。このように運用実績が予定利率をまかなえない状態のことを「逆ざや(利差損)」といい、債務超過によりすでに生保7社が破綻しました。 現在は「危ない生保」の破綻処理がほぼ終息し、一服感がありますが、公表されている逆ざや額は経費や死亡率にかかる差益で利差損を穴埋めした後の数値で、生保会社の逆ざや負担は極めて重いものがあります。
 今年3月期決算から金融庁が新しい将来収支分析基準でモニタリングを実施(非公開)しますが、生保不安の風評がまたぞろ高まる懸念もあります。こうした中で、金融審議会で既契約の予定利率引き下げ措置の導入について、相互会社の社員自治による保険金削減規定の復活(旧保険業法46条)をめぐって議論されていますが、もし特定の保険会社がこの法律に基づき保険金削減を目的とした社員総代会を開催しようとすれば、その保険会社の解約騒動は不可避であり、もとより社員(契約者)の同意も得られないでしょう。つまり、相互会社の社員自治による保険金削減規定の法律が導入されたとしても、実際は形だけで使えないものになるといってよいでしょう。また、将来的には生保会社が借金以外で自己資本を増強したり、合併したりするために相互会社組織から株式会社への転換が進むため、相互会社を前提としたこのような法律は無意味なものになります。このようなことから、今回の相互会社における予定利率の引き下げを可能とする法律の制定について、あまりセンセーショナルに受け止める必要はありません。
 将来、さらに超低金利政策が続いた場合、現実的な逆ざや救済策として生保専用国債の発行や徳政令的な特別立法措置(相互会社・株式会社含め全社一律引き下げ)が検討される可能性もありますが、いずれにせよ、既契約の予定利率がすぐにでも引き下げられるような具体的な動きが出てくる状況ではないので、いたずらに風評に惑わされないことが肝心です。(「マネージャパン」2001年7月号掲載の筆者稿「大疑問・生保予定利率」に加筆)

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