●銀行の保険窓販A全面解禁について
●お待たせしました。幅広い読者の意見を頂戴したいので、念のため窓販全面解禁の検討経緯に関する参考資料を数点掲示します。長いので読む必要のない人は、次の見出しに飛んでください。
 
★参考:「銀行等による保険販売規制の見直しについて」(平成16 年3 月31 日金融審議会金融分科会第二部会)

本年1 月16 日、金融審議会金融分科会第二部会は、@保険商品の販売のあり方、A保険会社のガバナンスのあり方、B保険契約者等の保護のあり方、といった保険に関する主な検討課題について審議することを決定し、「保険の基本問題に関するワーキング・グループ」(保険WG )において検討を行うこととしたところである。今般、課題の一つである「銀行等による保険販売規制の見直し」について保険WG から報告があり、当部会においてこれを審議した結果、当部会の報告として了承することとした。当部会としては、行政当局に対し、本報告を踏まえ、速やかに所要の措置を講ずるよう求めたい。

【銀行等による保険販売規制の見直しについて】(保険WG における検討の部会への報告)

本年1 月16 日の金融審議会金融分科会第二部会において、「銀行等による保険販売規制の見直し」が、保険に関する主な検討課題の一つとされ、「保険の基本問題に関するワーキング・グループ」(保険WG )において検討することとされた。
これを踏まえ、保険WG においては、本年1 月以降、これまで8 回にわたり検討を重ねてきた。検討は、商品の提供者や利用者等の関係者から広く意見を聴取するなど、幅広い観点から行われた。なお、保険WG の開催状況は別紙のとおりである。
保険WG は、これまでの検討を踏まえ、銀行等の保険販売規制の見直しに当たっての基本的な考え方や論点の整理を行った。保険WG としては、本報告を踏まえ、今後、行政当局において更に実務面での検討も深め、適正な販売規制の見直しを行うことを求めるものである。

<銀行等による保険販売についてのこれまでの経緯>

保険募集を行う者については登録制とされており、登録拒否要件に該当しない限り保険募集人となることが認められているが、銀行等及び証券会社については、過去において保険募集をその業務とすることは認められていなかその後、各般の議論を踏まえ、証券会社については、平成10 年の証券取引法改正により、本業以外の業務範囲が大幅に拡大され、保険募集を業務とすることが認められた。また、銀行等については、平成12 年の保険業法改正により、「保険契約者等の保護に欠けるおそれが少ない場合」に保険募集を行うことが認められた。その後、銀行等による保険商品の販売解禁は、以下のように2 度にわたり行われてきている。
(1)平成13 年4 月:住宅ローン関連の信用生命保険・長期火災保険・債務返済支援保険(信用生命保険については引受保険会社が子会社又は兄弟会社である場合に限る)、及び海外旅行傷害保険の販売が解禁。(併せて、信用供与の条件として保険募集を行う行為等を禁止する弊害防止措置が設けられた。)
(2)平成14 年10 月: 個人年金保険、財形保険、年金払積立傷害保険、財形傷害保険の販売が解禁。住宅ローン関連の信用生命保険に係る引受保険会社の限定を解除。
(併せて、保険商品を購入しないことが他の取引に影響を及ぼさないことの顧客への説明等の弊害防止措置が設けられた。)
銀行等による保険販売規制の見直しは、これまで、それに伴うメリットとデメリットとを比較考量し、必要な弊害防止措置を講じた上で行われてきたところである。
今回の見直しに当たっても、銀行等が販売できる保険商品の範囲の拡大のメリットと、これに伴う弊害の懸念を踏まえ、検討する必要がある。

<メリットについて>

銀行等が販売できる保険商品の範囲の拡大については、以下のようなメリットがあるとの意見が出された。
(1)銀行等の参入により販売チャネルの多様化が進めば、消費者がアクセスできる保険商品の選択肢や商品に関する情報が増え、利用者利便の向上が期待できる。
(2)販売チャネルの適切な競争を通じて販売システムの効率化が進めば、保険料の低廉化により、利用者利益の増進につながり、また、保険市場の拡大も期待できる。
(3)販売チャネルの多様化は、各販売チャネルの特性を反映した、利用者のニーズに適合する商品開発の促進につながり、市場の発展にも資する。
(4)銀行等が販売できる保険商品を一部に限ると、保険市場全体の商品構成を歪めることにつながる。また、販売できる商品の規制に合わせるための、ループホール(抜穴)的な商品が出てくるおそれがある。
(5)少子高齢化など保険業を取り巻く環境が変化している中で、保険会社においても、国民のニーズに適合した商品開発や効率的な販売体制の確立等、変化に対応したビジネスモデルの構築が求められている。こうした観点からも、販売チャネルの多様化が必要である。

<懸念される弊害(デメリット)について>

他方、銀行等が販売できる保険商品の範囲について、特に保障性の高い商品を含め拡大する場合には、以下のような弊害(デメリット)や問題点があるとの意見が出された。
(1)銀行等は強力な販売力を有している。特に融資先に対しては極めて強い影響力を有しており、圧力販売が行われるおそれがある。
(2)銀行等が保障性の高い商品を販売する過程で入手することとなる健康情報が、融資判断に流用されるおそれがある。
(3)銀行等は、保険商品の販売を行うのみで、保険の引受けを行わないため、不当に保険加入しようとする者の第一次選択がおろそかになるおそれがある。また、現在の販売チャネルで行われているようなアフターケア等が十分に行われないおそれがある。
(4)銀行等が、その強力な販売力を背景に、引受保険会社のリスク管理能力を超えた保険販売を行うことや、保険会社を実質的に支配したり系列化することにつながるのではないか。
(5)不良債権問題の終結に向けた取組を行っている等の現下の状況では、銀行等は本来の業務に徹するべきではないか。
(6)保険会社の主力商品である死亡保障商品や自動車保険の市場が縮小又は伸悩みの傾向にある中で、新たな販売チャネルが既存の販売チャネルに与えることとなる影響についても考慮する必要がある。

<考えられる弊害防止措置>

弊害については、これをどのように防止するか工夫する必要があるが、検討すれば以下のとおり。
(1)銀行等による融資先への販売
銀行等が保険商品の販売を行うことの弊害として、特に強い懸念が示されたのは、銀行等が融資者としての影響力に基づき圧力販売を行うことである。圧力販売については、銀行等にその意図がない場合であっても融資先は圧力を感じるおそれがあるとの指摘があった。また、保障性の高い商品について圧力販売が行われた場合には事後的な救済が困難であるとの指摘もあった。
なお、圧力販売については、抱合せ販売(融資の条件として保険販売を行う行為)が既に禁止されており、それで十分に対応できるとの指摘があった。また、そもそも自由であるべき契約を事前に制限することについては慎重であるべきとの指摘も複数出された。
次に、同じく銀行等と融資先との関係の問題として、銀行等が保障性の高い商品を販売する過程で入手することとなる健康情報が、融資判断に流用されるのではないかとの懸念も示された。
これら各般の指摘を踏まえた上で、保険WG においては、銀行等が販売できる保険商品の範囲を保障性商品まで認める場合、新たに認められる商品については、従来の抱合せ販売の禁止に加えて、「圧力販売につながるような融資先に対する保険販売を禁止」することが適当であるとの意見が大勢を占めた。
以上の考え方を踏まえ、保険販売の規制の対象となる、「圧力販売につながるような融資先」の具体的な範囲については、圧力販売の懸念を排除しながら、一方において過剰な規制とならないよう、実務的な問題も含め、行政当局において更に検討を深めることを求めたい。
(2)適切な情報管理
情報管理については、銀行等が保険販売業務を通じて得た情報を、銀行等の融資業務等との関連においてどのように取り扱うかという問題と、逆に、銀行等の融資情報や決済情報等を、保険販売業務の関連においてどのように取り扱うかという問題とを区分して考える必要がある。また、後者については、更に融資情報の場合と、決済情報等の場合とを区分して考える必要がある。
まず、保険商品の販売によって得られた健康情報の融資判断への流用という点については、「圧力販売につながるような融資先に対する保険販売を禁止」する措置により問題は相当程度解消されると考えられるが、いずれにしても健康情報については厳格な管理が必要となる。
一方、融資情報については、「圧力販売につながるような融資先に対する保険販売を禁止」する措置を的確に実施するため、保険販売の際に利用する必要があり、適正な手続きやコンプライアンス体制の整備が必要である。
また、その他の情報の取扱いについては、非公開情報保護措置(保険販売業務とその他の業務の間で顧客の同意なく非公開情報の流用を禁止する措置)一般の問題であり、例えば預金・決済等の業務で得られた顧客情報については、顧客の同意なく保険販売に用いられることがないよう、適切に管理することが求められる。
(3)銀行等の保険販売と保険会社等への影響
銀行等の保険販売の拡大による保険会社等への影響、具体的には、引受保険会社のリスク管理能力を超えた保険販売を行うことと、保険会社を実質的に支配したりすることの懸念や、既存の販売チャネルに及ぼす影響についての懸念が指摘されている。
こうした懸念については、「圧力販売につながるような融資先に対する保険販売を禁止」する措置を講ずることにより、相当程度緩和されるのではないかと考えられる。また、一方において、販売チャネルの多様化というメリットの享受という面もある。
なお、保険会社が特定の銀行等に保険商品の販売を過度に依存することや、銀行等が特定の保険会社の商品のみを販売することは、リスク管理の在り方や利用者利便の向上等の面から、適切ではないとの指摘もある。一方、保険会社が銀行等とどのような提携をするかは、基本的には保険会社の自主性や経営上の選択の問題であるとの指摘もある。これら
の指摘も踏まえ、何らかの対応が必要かどうかについて、実務面も踏まえた検討がなされる必要があると考えられる。
(4)コンプライアンス体制等の確立
銀行等における保険販売業務が適切に行われることを確保するとともに、各般の弊害防止措置を有効に機能させていくためには、コンプライアンス体制の整備や苦情・紛争処理体制の活用が重要な課題であり、今後、例えば、銀行等の各営業所に保険商品の販売についてのコンプライアンス責任者を設置するといったことも含め、適切な措置を講ずる必要がある。

<基本的方向性と実施時期>

保険WG においては、契約者や国民全体にとっての利益の増進という視点から、銀行等において原則として全ての保険商品を取り扱えるようにすることが適当であり、その際には、以上のような弊害防止措置が適切に講じられることが前提となるとする意見が大勢を占めた。
実施時期については、メリットの実現を目指す観点から、できるだけ早期が望ましい。その際、銀行等での販売体制の整備や弊害防止手続きの確立等のための準備期間を設ける等、円滑な実施を図る必要がある。
以上を踏まえ、銀行等による保険販売規制の見直しについては、本報告後例えば1 年後から段階的に行うこととし、新たな弊害防止措置の実効性をモニタリングしながら、遅くとも本報告後3 年後には、銀行等において原則として全ての保険商品を取り扱えるようにすることが適当であるとの意見が大勢を占めた。今後は、行政当局において、本報告の趣旨を踏まえ、速やかに適切な措置を講じるよう期待する。

<その他考慮すべき事項>

その他、銀行等による保険販売規制の見直しに関して、以下のような意見も出された。今後の施策の展開に当たって十分に考慮するよう求めるものである。
― 既存の弊害防止措置に加え、行政当局においても、銀行等による保険販売の適切な実施をモニターするため、例えば現行の「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」のような仕組みを導入するなど監視・監督の強化を図るべきとの意見があった。また、保険会社の経営の健全性の確保のため、行政当局の監督体制の更なる充実を図るべきとの意見もあった。
― 消費者保護に関して、金融商品に関する消費者教育についての施策の充実や、消費者に対する情報提供の充実が必要との意見があった。特に、銀行等の大規模な代理店については、顧客のニーズに応じた商品説明の充実を図る必要があるとの意見があった。また、保険契約の乗換えの不当な勧誘等の防止を徹底することや、苦情処理体制や裁判外紛争解決手続(ADR )を充実・活用することが必要との意見があった。更に、金融商品の販売・勧誘についての横断的なルール整備を検討すべきとの意見もあった。
― 今後、金融について、異なる業態や業務の融合が一層進展していくこととなれば、金融機関が他の業態の金融商品の販売を行うことにより自ら新たなリスクを抱えることになっていくことも考えられ、そのような変化も視野に入れたリスク管理体制を検討していくことも必要になるのではないかとの意見もあった。


★参考:銀行等による保険販売規制の見直しについて(平成16年3月31日)社団法人 生命保険協会  森田富治郎会長

 本日、「金融審議会金融分科会第二部会」及び「保険の基本問題に関するワーキング・グループ」において検討されてきた「銀行等による保険販売規制の見直し」についての報告書が公表されました。 今回の報告書では、「銀行等による保険販売規制の見直しについては、本報告後例えば1年後から段階的に行うこととし、新たな弊害防止措置の実効性をモニタリングしながら、遅くとも本報告後3年後には、銀行等において原則として全ての保険商品を取り扱えるようにすることが適当であるとの意見が大勢を占めた。今後は、行政当局において、本報告の趣旨を踏まえ、速やかに適切な措置を講じるよう期待する。」とされております。 

 銀行等による保険商品の販売については、保険業法により、「保険契約者等の保護に欠けるおそれが少ない場合」に限定されており、保障性商品にまで及ぶ販売対象商品の拡大は、銀行等が有する優越的地位を背景とした販売、医療・健康情報の融資等銀行業務への流用、製販分離の急激な進行に伴う保険制度全般の健全性悪化等の弊害が危惧されるため、認められるべきではないと我々が主張してきた点について、多くの重大な懸念が残るものであります。 

 銀行等が販売できる保険商品の拡大が、真に保険業法の趣旨を踏まえた保険契約者等の保護に適い、国民全体にとっての利益の増進に貢献し得るかどうかは、一にかかって弊害防止措置の実効性を確保し得るかという点にあります。  今後、金融庁にて検討される具体的な弊害防止措置については、起こり得る様々な弊害を確実に予防し、潜脱行為も生じないようなルールが措置され、また、実効性を確保するために適切な検査・監督が行われる体制を整備していくことが、必須であると考えます。  なお、実施時期については、「遅くとも本報告後3年後には」とされていますが、諸々の販売体制の整備や弊害防止手続きの確立等のために十分な準備期間を設けるとともに、銀行等に対する厳格な検査等によるモニタリングを通じて、弊害防止措置の実効性を入念に検証したうえで、慎重に見極めていくべきであると考えます。


★参考:週間東洋経済「生保・損保特集」04年版の巻頭論文「銀行窓販全面解禁の衝撃」元稿の前文より(拙稿の未発表文の一部)
<国内生保編>大義がない銀行窓販全面解禁、▼窓販全面解禁の本丸は07年度郵政完全民営化

 03年10月の窓販実績やコンプラ関連での金融庁担当官によるヒヤリングの席でのことだった。04年3月末までに固まる窓販拡大種目について、「損保会社が強く要望している第3分野の追加解禁で落着だろう」とタカを括っていた大手生保の企画担当課長は、担当官から「全面解禁」をにじませた言葉を聞いて、一瞬、耳を疑った。ノンキャリアの担当官との実務的なヒヤリングの席でもあり、「まさか本気では…」と思い直そうとしたが、重い衝撃が彼の思考能力を停止させた。11月まで行われた内外保険各社、銀行へのヒヤリングを通して、誰もが金融庁の「本気」を知るところとなった。

 12月19日の生保協会理事会後の意見交換会の席上、金融庁の三國谷審議官が窓販の説明の中で、「関係業界のヒヤリングで寄せられた意見や、今年3月閣議決定の規制改革推進3カ年(再改定)計画で、すべての保険を取り扱えるとされていることを踏まえて精力的に検討を進める」と保険窓販全面解禁の方針を明示した。事前の政治介入の暇を与えぬ、それは異例の速さの通告だった。金融庁が自民党金融調査会の内諾も取らずに、何故、時限を区切って独断専行で全面解禁路線を急いだのか?
 金融庁が蛮勇を奮って世界初の壮大なバンカシュアランス実験を決断した背景には諸説ある。竹中金融相がかねて面識のある三木繁光・東京三菱銀行頭取(銀行協会長当時)との会談で証券仲介業務の取扱を積極的に支持し、気楽にあれもこれもとそこからすべての流れが始まったとの説が一つ。

  また、与党の守旧派・改革派含めて最終的には支持せざるを得ない大きな理由があって、官邸主導で事は進んだとの説もある。今秋の経済財政諮問会議(議長:小泉首相)で07年度の郵政民営化のビジネスモデル、すなわち郵便局窓口での簡保(生保)・郵貯(銀行)・郵便抱き合わせのユニバーサルサービスによる民営化モデルの骨格を公表し、民営化法案を来年の次期通常国会に上げなければならない。07年度以降郵政民営化を実現し、民間の郵便局の窓口で預貯金と生保商品を扱えるようにするには、銀行窓販の保険商品を制限しておくわけにはいかない。内閣官房・郵政民営化準備室(副室長の高木長官ほか金融庁からスタッフ派遣)としては、同時期に競争条件のイコールフッティングを図らなければ、銀行側の反発を招くことは必至で、いまや小泉首相の一枚看板の郵政民営化は進まない。

 かくして、郵政民営化路線に乗って、ゆくりなくも銀行には窓販満額回答のアメが与えられる形となった、という「郵政民営化・本丸説」である。後者の説に従えば、本丸の郵政民営化で簡保・郵貯の分離方式が導入されない限り、金融庁による大義=消費者ニーズの無い保険窓販全面解禁実験を止めることは困難であり、すでに大勢は決していることになる。一方の利害当事者の肝心の生保は蚊帳の外に置かれたままで。
(同特集号「国内生保編」「外資系生保編」の掲載稿は、誠に勝手ながら買って読んでくださいな)



●窓販全面解禁のLinuxやっと始まりました。まあ、慌てず腰を据えて窓販のあり方を議論しましょうよ。
 小生はこれでも人後に落ちない規制緩和論者のつもりです。販売チャネルの多様化=消費者の利便性向上などと、単純に話を括るほど安易ではないけど、消費者個々のニードは様々であり、カスタマーフォーカスで商品やその特性に適ったチャネルの多様化を進めることは保険会社の至極当然の企業活動であって、昔からモノチャネルでやってる歴史があるからこれが一番いいなんて横着な言い分は許しません。
 すべては消費者ニーズによって市場が動くのであって、商品もチャネルも消費者の選択肢を拡大すべく規制緩和をどんどん進めるのは当たり前のことです。営業職員であれ、プロ代理店であれ、企業代理店、ディーラー、直販、窓販であれ、消費者の利便性・有利性に貢献するプロフェッショナルなチャネルが発展し、そうでないチャネルが市場から廃嫡されるのは当然の市場原理です。同時に、規制緩和においては、市場の主役である消費者の自己責任原則が強く貫かれるべきです。


 
さて、消費者ニーズに対応して販売チャネルを多様化することで、消費者の利便性や有利性が向上するという規制緩和のあり方には、大方の異論はないでしょう。そこで、銀行窓販全面解禁の実務ベースの問題点は今年の東洋経済保険特集号にこってり書いておいたのでここでは詳述しないが、ぜひ皆さんに教えて頂きたいことがある。保障性商品の窓販に対する消費者ニーズって、慌てて「3年後全面解禁」と時期を区切らなければいけないほど切迫して高まっているのですか?いや、私も約35年間ほど保険の商売を見てる人間だけど、ガン保険やら死亡保険やら自動車保険をぜひとも銀行で買いたいっていう人は、ほとんど見たことも聞いたこともないのです。そこんとこ全面解禁議論の入口の前提要件ですから、ぜひ教えてください。できれば「3年後を目途に」と書いた人に。金融審は消費者利便を重視して国民経済的な見地から議論を深めて、「3年後」って時限を区切ったのでしょう?

 思えば昨年秋以降、えらいスピードで全面解禁の方向が固まったけど、例によって上澄みすくった、あるべき論ばっかしでトントン議論、いや会合だけ重ねたよね金融審は。ヒヤリングに応じた専門家が言ってたよ、窓販動向の某テーマ(これを言うとバレちゃうから言わない)について20分で話せだってさ。専門家の時間を掛けた貴重な研究成果に対してだよ。国会でも審議会でも20分とか15分とかの時間割が多いけど、聞いてる方が分からないだろうに。行政諮問機関として結果責任は問われるのだから、しっかりやってくださいよ。で、なんで「3年後」なんですか?消費者に時限の論拠を公開すべきでしょう?ぜひ、教えてください。

 窓販の法体系についていろいろ専門家に聞いてみると、現在は法275条で「保険契約者等の保護に欠けるおそれが少ない場合」として、言わば例外的に「銀行等」に保険募集を認め、これを受けた施行規則211条で具体的な制限内容として<商品範囲>と<非公開情報保護措置>を定める一方で、A法300条及びこれを受けた規則234条で<禁止行為>を定める構成となっている。来春の一部解禁については、「銀行等」の保険募集人としてのステイタスは現状通り「例外的」であり、法275条の改正は不要だろう。<商品範囲>の拡大については規則211条の改正で、また<弊害防止措置>の導入は<禁止行為>の内容の変更(または追加)であるから規則234条の改正によって対応すればよい。さらに、「3年後の全面解禁」は、「銀行等」の保険募集が「例外的」ではなく、「原則OK」となることを意味するため、法275条の「保険契約者等の保護に欠けるおそれが少ない場合」との規定について何らかの改正が必要になるのではないか。その場合、<商品範囲>に関して規則211条の、<弊害防止措置>に関して規則 234条の改正がそれぞれ必要となる――といった道筋が考えられるようだ。

 要は、消費者に対して強者の銀行は「融資抱き合わせ保険販売」のような悪さをするという前提で書かれている業法規定を、この際格好悪いから、国際標準化ってことで撤廃(改正)→全面解禁し、弊害防止措置その他諸々の、消費者保護というよりも業態間調整措置は施行規則に落とし込んだら、まあまあ格好が付くってことでしょ。法律実態論的には。

 でも、窓販に国際標準なんてないよね。おおむねキャリヤ規制でスタートし段階的にオープンアーキテクチャー(子保険会社以外の商品を取扱)に移行しながら、ほとんど貯蓄商品を扱ってシェアを急拡大させている欧州市場の窓販もあれば、銀行は連邦法、保険は州法規制で西部開拓時代からのスモールタウン条項まで存置しつつ、金融サービス改革の流れの中で独立代理店の子会社化や投資ブローカーや銀行雇用セールスマンが投資商品の範疇にある年金商品を中心に最近は第3分野商品をぼちぼち売り始めた米国市場もあるしで。諸外国もそれぞれの市場構造・商慣行・法体系に基づいてやってるわけだから、ここはひとつ日本の消費者のための規制緩和を、全面解禁すべきかどうか、3年後が適当かどうかも含めて、消費者ニーズを把握したうえで、じっくり腰を落として考えたらいいのではないでしょうか?え?07年度〜17年度の郵政民営化のスケジュール(民間郵便局での貯金・融資・保険サービス、第3分野単品販売、損保販売、通算保障限度額撤廃など)を決めなきゃならないから、イコールフッティングで銀行にアメをあげちゃうの?それじゃあ、やっぱし大義が郵政民営化であって、消費者ニーズ抜きの官製規制緩和じゃないの。

 主要損保は、このたびの窓販全面解禁では脇役だ。異常危険準備金を除く正味の引受利益で自動車保険が8割のウエートに達する中で、最も生産性が高いわが国固有の制度であるディーラー代理店の反駁を受けてまで窓販に依存する考えはない。50歳代1900万人市場のニーズがピークアウトするまでは第3分野市場が拡大することを睨んで、ともかく早期に、できれば来年の一部拡大窓販からの第3分野の取扱を期待している。自動車保険や第3分野商品の保険金は修理費・治療費に充当されるフロー資金であって、銀行にとっては必要なストック資金にならないから資金循環が成立しない。

 一方、生保の支払保険金・満期保険金・年金はストック資金であって銀行が扱う預貯金・投信・国債等と資金循環が成立する。長期金利水準のゆるやかな持続的上昇(生保の逆ざや解消の道筋)がいつになるのかまったく見えない中で、かつ、銀行の生保募集人登録者数42万人、生保会社の募集人登録者数28万人という信じられないような逆転現象が実際にある中で、定期預金+定期保険や第3分野商品の抱き合わせ販売(セット商品)なぞ解禁されたら、営業職員モデルに依存する生保会社は終焉を迎えることになるかもしれない。もっぱら銀行のビジネスチャンスを拡大し、生保会社の主体的マーケティングを市場から廃嫡することが、果たして消費者ニーズに応える規制緩和になるのか。窓販全面解禁は、単なる販売チャネルの多様化に止まらない。銀行の保険販売はとどのつまり手数料ビジネスである。生保の商品・販売・価格(付加率)政策を銀行が主導権を取る市場が、国民経済的に望ましい市場になるのか。生保も損保も銀行もコアビジネスを磨き、消費者に裨益する環境を整備することが規制緩和の本旨ではないのか。

 しかし、利下げ法でコアビジネスの信頼が揺らいだ生保の叫びは世間に響かない。シェアの大きい大手生保は保有をしっかりグリップし、低予定利率商品に転換を進めていけば当分の間は十分飯を食っていける。よって、孤児化を防止するための陣容確保に躍起になっているが、採用難の中、従来にもまして「採用・育成・募集」の3本柱から成る低生産性型の営業職員体制を固めている。営業機関で「今月は契約募集するな!採用しろ!」なんて朝礼で檄を飛ばしている様を見たら、他業態の人間は驚くだろう。人材派遣業でもあるまいに、採用要件を職員の資格(給与)体系に織り込んで平然としている生保会社にとって、窓販全面解禁騒動がその旧態依然としたビジネスモデルを転換する契機となれば、それは一つのメリットと言えるだろう。

 銀行自身、本業で業務純益が拡大しているにもかかわらず、竹中金融行政によるアメ(公的資金注入や、保険窓販・証券仲介業務解禁によるフロー収益拡大措置)とムチ(不良債権処理の厳格化)に唯々諾々と身をまかせていると、いつしか裁量行政に縛れる結果を招く。
 「ペイオフ騒ぎに対応した年金窓販が銀行にとってはど真ん中のストライクだった。保障性生保商品の窓販には、預金者の利便性ない。世界の常識で日本の非常識となっている口座開設手数料を取るとか、貸し金リスクへの金利感応度を高める工夫をするなど、堂々と本業の収益拡大で努力すべき課題がいくらでもある。ブランド力で楽に稼げる保険販売手数料に依存して、銀行自らが租税回避行為(逓増定期)や歩積み両建ての保険版にまで手を染めると、必ずや企業の存亡に関わる風評リスクを背負い込む。そのダメージは、かつて経験した変額保険の無資格行員募集などの比ではない。モニタリングで弊害防止措置を決めるというが、何かある度に内閣布令を書かれたのでは、窓販の面でも旧MOF時代の裁量行政に戻ってしまう。銀行側にも大きなリスクが発生する前提で、むしろ、きちんとした線引ルールを業法本法上に明文化すべきだ」(大手銀行OB談)
 さあて、金融庁も保険業界も銀行も、そして何より消費者も含めて、じっくり時間をかけて議論しようではないか。慌てることは何もない(04年10月29日、山野井良民)



<参考資料>金融庁・窓販全面解禁に向け弊害防止措置見直し内閣府令案を公表(05年6月10日)
 金融庁は6月10日、07年度銀行窓販全面解禁に向けての弊害防止措置の見直しを骨子とする、「保険業法施行規則及び銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令等」(案)を取りまとめ、公表。第1・2・3分野の一部商品は今年末に追加解禁される。金融庁は平成17年7月3日(日)17:00まで同内閣府令案に関する意見を募集。
<内閣府令案の概要> 
T、趣旨
 金融審議会第二部会報告(平成16年3月)、規制改革・民間開放推進3か年計画(平成16年3月閣議決定)等を踏まえ、銀行等による保険募集について、弊害防止措置の強化等を行うとともに、その取り扱うことができる保険商品の範囲を拡大することとする。
U、内閣府令案の概要
1.弊害防止措置の見直し
(1)保険会社が銀行等に保険募集を行わせるときは、銀行等への委託に関する方針を定めるとともに、銀行等の保険募集の状況を的確に把握するための措置等を講じなければならないこととする。(保険業法施行規則(以下「規則」という。)第53条の3の3、事務ガイドライン1−15−1関連)
(2)保険募集を行う銀行等が銀行業務等で知り得た顧客の非公開情報を顧客の同意なく保険募集に利用することを制限する措置について、その対象となる非公開情報の定義や顧客の同意を得る時期及び方法を明確化する。(規則第211条第2項第1号、第211条の2第2項第1号、第211条の3第2項第1号、事務ガイドライン1−15−2関連)
(3)保険募集を行う銀行等は、引受保険会社の商号等の明示、保険契約に関する情報の提供等に関する指針を定め、公表し、その実施のために必要な措置を講じなければならないこととする。(規則第211条第2項第2号、第211条の2第2項第2号、第211条の3第2項第2号、事務ガイドライン1−15−3関連)
(4)保険募集を行う銀行等は、保険募集に係る法令等の遵守を確保するため、営業所又は事業所ごとに責任者を、本店又は主たる事務所に総括責任者を配置しなければならないこととする。(規則第211条第2項第3号、第211条の2第2項第3号、第211条の3第2項第3号関連)

2.新たな弊害防止措置の導入
(1)銀行等が新たに取り扱うことができる保険契約(以下「新規解禁保険契約」という。)の募集を行う場合、以下の者(以下「保険募集制限先」という。)を保険契約者又は被保険者として当該保険契約の募集を手数料を得て行ってはならないこととする。(規則第211条第3項第1号、第211条の2第3項第1号、第211条の3第3項第1号関連)
イ.事業資金の融資先である法人、その代表者及び個人事業主
ロ.事業資金の融資先である小規模事業者(常時使用する従業員の数が50人以下の事業者)の役員及び従業員
(2)新規解禁保険契約の募集を行う銀行等は、保険募集制限先を確認する業務を的確に遂行するための措置、保険募集に係る業務が銀行等のその他の業務に支障を及ぼさないようにするための措置等を講じなければならないこととする。(規則第211条第3項第2号、第211条の2第3項第2号、第211条の3第3項第2号、事務ガイドライン1−15−4関連)
(3)新規解禁保険契約の募集を行う銀行等は、あらかじめ顧客に対し、保険募集制限先を確認する業務に関する説明を書面の交付により行わなければならないこととする。(規則第234条第1項第9号関連)
(4)新規解禁保険契約の募集を行う銀行等は、事業資金の融資業務を行う使用人が保険募集を行わないことを確保するための措置を講じなければならないこととする。(規則第211条第3項第3号、第211条の2第3項第3号、第211条の3第3項第3号関連)
(5)新規解禁保険契約の募集を行う銀行等は、顧客が当該銀行等に融資の申込みをしていることを知りながら、当該顧客またはその密接関係者に対し保険募集を行ってはならないこととする。(規則第234条第1項第10号、事務ガイドライン1−15−5関連)
(6)銀行等の特定関係者(子会社、兄弟会社等をいう。)を通じた上記(1)及び(5)の規制に係る潜脱行為を禁止する。(規則第234条第1項第14号、第15号関連)

3.中小金融機関の特例
(1)営業地域が限定されているものとして金融庁長官が定める金融機関が、生命保険、第三分野保険の募集を小口(各分野で保険契約者一人当たりの保険金額が1000万円以下である場合をいう。以下同じ。)に限る場合には、(規則第211条第4項、第211条の2第4項、第211条の3第4項、金融庁告示第2条関連)
イ.上記2(1)ロに定める小規模事業者を、常時使用する従業員の数が20人以下の事業者とする。(規則第211条第3項第1号、第211条の2第3項第1号、第211条の3第3項第1号関連)
ロ.上記2(4)に定める措置を、金融庁長官が定めるより簡易な措置で代えることができることとする。(規則第211条第3項第3号、第211条の2第3項第3号、第211条の3第3項第3号、金融庁告示第1条関連)
(2)協同組織金融機関は、生命保険、第三分野保険の募集を小口に限る場合には、事業資金の融資先である会員又は組合員に対しても保険募集を行うことができることとする。(規則第211条第5項、第211条の2第5項、第211条の3第5項関連)

4.銀行等が募集できる保険契約の範囲の拡大
(1)6か月程度の準備期間の後、銀行等は以下の保険に係る契約の募集を行うことができることとする。(改正府令第1項関連)
イ.一時払終身保険、保険期間10年以下の平準払養老保険(法人契約を除く。)及び一時払養老保険(規則第211条第1項第4号関連)
ロ.自動車保険以外の個人向け損害保険(事業関連の保険を除く。)のうち、団体契約等でないもの又は積立保険(規則第211条の2第1項第6号関連)
ハ.積立傷害保険(規則第211条第1項第5号、第211条の2第1項第7号関連)
(2)上記(1)から2年後に、銀行等は全ての保険契約の募集を行うことができることとする。ただし、銀行等による保険募集の実施状況や弊害防止措置の実効性を検証し、保険契約者等の保護のために必要な場合には、銀行等が全ての保険契約の募集を行うことができる期日を見直すこととする。(改正府令第1項、第3項関連)
(3)銀行等が既に募集を行うことができるとされている保険契約について、以下のような要件の緩和を行うこととする。
イ.住宅ローン関連の信用生命保険、長期火災保険及び債務返済支援保険の付保対象である店舗併用住宅について、専ら事業の用に供される部分の床面積が1/2以下とする制限を緩和する。(規則第211条第1項第1号、第211条の2第1項第1号、第2号関連)
ロ.被保険者の生存に関する保険で、払い込まれる保険料の総額等により保険金等の額が定められるものについて、年金以外の保険金の支払いを約するものも認めることとする。(規則第211条第1第2号関連)

5.その他
 その他所要の規定の整備を行うこととする。(銀行法施行規則第17条の3第2項第3号の4、長期信用銀行法施行規則第4条の5第2項第3号の4、信用金庫法施行規則第10条の5第2項第3号の4、協同組合による金融事業に関する法律施行規則第3条の2第2項第3号の4等関連)


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