●TLC会講演録「銀行窓販全面解禁と生保営業の課題」(2)(05年5月4日)
★金融改革ロードマップで「金融・保険大統合」も
04年12月末に金融庁は向こう2年間の金融改革ロードマップを発表しました。07年度の郵政民営化をも睨んで、業態間の垣根を越えた市場重視型の保険取引ルールの整備、投資サービス法や金融コングロマリット法の構築などを視野に入れた大胆な金融改革の動きは、今後さらに急ピッチで進んで行きます。将来は銀行・生保・損保業態を横断するような大規模なアライアンス(業態をまたぐ統合による再編)も起こりうるでしょう。
いまより、もう一段大きな金融コングロマリットが形成される時代になれば、自ずから生保VS銀行といった局面的な対立構造では捉えられなくなり、相互の経営資源を生かす形で広範な業務の代理・事務の代行が行われるようになるでしょう。いずれにしても、07年度の郵政民営化で郵貯・簡保のユニバーサルサービス(全国的展開)が実現するならば、民間の生損保・銀行も大規模な統合へと進まざるを得ないでしょう。

★欧州で急速に発展するバンカシュアランス
このように金融改革の大きな潮流を捉えて、銀行窓販についても目先の動きに惑わされることなく、基本的な方向性をしっかりと見通すことが大切です。ただ、銀行にしても、第1分野(生保)・第2分野(損保)・第3分野(医療・介護・傷害保険)にわたる窓販全面解禁が予定される07年度以降、段階的に最適な窓販モデルを試行し構築していくわけで、いまから一喜一憂する必要はありません。
銀行が保険を販売するバンカシュアランスは、近年、規制が緩い欧州で急速に発展しています。その形態は主に、銀行が保有する子生保会社または兄弟生保会社の保険商品を親銀行が販売するものです。前回述べたように、01年4月からの日本での窓販解禁時においても、生保商品(信用生命保険)については銀行の生保子会社の商品を取り扱う旨の規制(キャリヤ規制)が付されました。これが02年10月からのいわゆる年金窓販解禁時にはキャリヤ規制が撤廃され、銀行は広く複数の内外生保会社の代理店となって年金商品の販売ができるようになりました。
もっとも日本のバンカシュアランスの歴史は主要国の中でも古く、日本の近代損保会社の第1号代理店は明治12年に開業した「函館代理店」で、これはいまで言うところの地銀本体による窓販です。以降、数次にわたる保険募集に関する適正化措置を経て、銀行本体とは「ヒト・ハコ・カネ」の関係を分離した(銀行の関連会社にも相当しない)形の金融機関代理店(通称:金融機関別働体代理店)が都銀、地銀、信金、信組に至るまで、あまねく設置されています。この金融機関代理店は、形態上は現在、一般の法人代理店です。銀行から顧客紹介を受けて、かつては主に住宅ローン関連の長期火災保険を中心に第2分野を扱っていましたが、これに外資系生保が乗り合って第3分野を販売するようになり、その後、損保系生保・国内生保が乗り合い、いまでは第1・2・3分野のすべての保険商品を販売しています。第1分野では中小企業向けの逓増定期保険、第3分野ではガン保険・医療保険が主な販売商品です。
したがって、日本の銀行窓販とは銀行本体が代理店となって保険商品を販売することを言います。整理すると、日本のバンカシュアランスは、@銀行本体による窓販と、A金融機関代理店による保険販売との2つの流通ルートで形成されています。
銀行窓販の基本的な方向性を探るうえで、まず、欧米における銀行窓販の先行例を見ると、米国での銀行窓販の生保分野の保険料シェアは1〜2%程度で、あらまし銀行が買収した独立代理店扱いの生命保険料が銀行による生保窓販としてカウントされています。米国では、年金保険商品は投資商品の範疇に入り、銀行による窓販のメインは年金商品です。
欧州の場合は生保商品自体が貯蓄型ないしは投資型商品主体であり、こうした生存保険型の商品の窓販が進んでいます。例えばスペインは92年の販売チャネル自由化以降、僅か10年間余りで銀行窓販の生保分野の保険料シェアはゼロから実に77%に達しています。その他、フランス、イタリア、ベルギーでも50〜60%台と高いシェアで、ドイツは21%です。伝統的に独立系FAが強く窓販のシェアが18%と最もシェアの低いイギリスでも、04年中に銀行の生保子会社以外の生保商品も販売ができるように規制緩和され、07年度には28%程度の占率となる見通しです。ちなみに、欧州の銀行で販売されている貯蓄型生保商品の中には、ほとんど預貯金類似機能の生存保険もあります。
日本の生保市場は、顧客の年齢構造とそれに対応する商品体系は米国市場追随型の形態ですが、銀行と預金者の密着度合、すなわち地域における銀行のブランド力の高さは欧州類似の要素があると言えます。この欧米市場での生保窓販事例から07年度以降の日本の生保窓販の姿を敢えて予測するならば、貯蓄型商品を主体にして、余り時を経ずして銀行窓販が2〜3割程度のシェアを保持する可能性があると思われます。
ただし、弊害防止措置(窓販拡大の弊害を防止するための内閣府令。本稿執筆時点では公表されていない)の中で、銀行融資先の中小企業職域における従業員数要件がタイトなルールになれば、日本の法人数の9割以上は中小企業なので、銀行窓販の生保シェアは限定的な範囲に止まるものと思われます。

★リタイアメント市場を主導する年金窓販
 第1分野の貯蓄型商品の窓販に関して言うと、02年10月に解禁された年金保険の窓販で、日本のリテール退職者市場でのリタイアメントビジネスが一気に拡大しました。ペイオフ(05年4月に延期されたが)と銀行からの資金流出防止策およびフロー収益拡大策として実施された年金窓販は、永らく銀行預金としてデッドストック状態にあった膨大な資金を個人年金市場に放出する効果をもたらしました。
格付の低い銀行の預金者は、1000万円超の預金を同じ銀行が販売する格付の高い生保会社の年金商品に資金移動し、銀行は預金から年金に資金移動する手続を行うだけで、銀行業務ではあり得ない望外な高い手数料(初年度手数料は変額年金で最高5%、外貨建利率変動型定額年金では最高4%+為替手数料が円・外貨往復で2%)収入を得、窓販年金に流入した資金の主な受け皿となったのが高い格付と再保険ネットワークを持ち、ローコストオペレーションによる手数料配分余力の高い外資系生保と外資・損保合弁生保です。これらの新しい勢力が年金窓販解禁後1年余の短期間で資産残高3兆円にのぼる変額年金市場を生み出しました。
このように、ペイオフと年金窓販解禁を連動させた金融行政により、長引く超低金利で行き場を失っていた55歳前後〜60歳代後半の「小金持ち退職者層」の資金が窓販年金市場に流入し、従来の生保の常識では考えられない高年齢契約者層によるリタイアメント市場が組成されたのです。現在は変額年金の最低保証リスクに備える趣旨で責任準備金を大幅に積み増すルールが導入されたことから、現在は資本力のある国内生保が窓販年金の引受の受け皿として台頭しつつあります。

★ポイントは市場最適化と適正な利益配分
この年金窓販の事例のように消費者ニーズに対して、最適な商品と最適な販売チャネルとのマトリックス=市場最適化の方向で規制緩和が行われると、消費者と販売者とメーカーのそれぞれにとって成果(プロフィットシェア=最適な利益配分)がもたらされることになります。まず消費者ニーズがあり、Aそれに対応する最適な商品を、B最適なチャネルが販売するという、3つの要素を満たすマトリックスで「市場最適化」が適えられます。そして、この市場における最適な関係が持続するには、消費者・メーカー・販売者の各ステークホルダーに対して最適な利益配分が実現しなければなりません。
例えば、かつて「年金ローン」の活用で金融機関代理店が特定生保会社の一時払年金商品を拡販した事例がありました。消費者ニーズがあり、銀行系代理店は販売・ローン関連手数料が収入できるため集中的に拡販しましたが、その結果はバブル経済破綻後の超低金利と資産デフレに見舞われたメーカー(生保会社)が債務超過に陥り、戦後初の生保破綻に至ったケースがあります。
また、地価バブル当時の相続税対策として変額保険を銀行が積極的に融資を行い紹介販売(事実上は行員による無資格募集)を行い、バブル後の地価下落で契約者が返済不能に陥り、社会的な問題となった事例もあります。このように、長期の保険期間の生保商品の場合は、販売時点における市場最適化が必ずしも長期的に最適な利益配分につながらない場合もあるのです。ブランド力が高く、預金者の財布と資産を預かり、保険会社に対しても強い立場にある銀行の保険窓販については、販売時点のワンストップショッピングによる利便性だけで規制緩和を進めると、消費者や保険会社に不利益をもたらすこともあり得ます。
現在の規制緩和の論議は銀行のフロー収益拡大を前提とし、販売時点の利便性がすなわち消費者利益になるという、いささか短兵急な視点ですべてが括られているきらいがあり、保険特性を踏まえた専門的な議論が欠けているように感じます。
 お金を貯めるところである銀行が保険を扱う場合は、年金保険のような貯蓄型商品については、上記の海外の事例や日本での年金窓販の事例に見られる通り、おおむね「市場最適化」と「最適な利益配分」が成立しますが、それでも銀行の強い販売力に保険会社の引受政策や価格政策(ローディング:付加保険料)が引っ張られて、生保会社の経営安定性に影響を与える懸念もあります。事後の経済環境の変化によっては、先例の「年金ローン」同様の破綻懸念もなしとしません。
特に、第1・第3分野を含めて保障性商品の場合は販売時点から給付時点を通じて、この最適な関係が成立しにくいと思われます。消費者・預金者側から問題が発生すれば、銀行にとっても変額保険のトラブルのように、本業の信用まで失墜するリスク(信用リスク・風評リスク)を招来することになり、銀行もそこは慎重に分析・選択するでしょう。

★銀行側の生保窓販のメリットは何か
 銀行側の保険窓販の最大のメリットは言うまでもなく、高い保険販売手数料収入によりフロー収益が拡大することにありますが、銀行にとって魅力的な窓販戦略のポイントは、概ね次の諸点に括れます。
<貯蓄型生保商品の窓販の場合>
@貯蓄型の保険商品は銀行にとってみれば固定性定期預金と同じで扱いやすく、かつ金利コスト・預金保険料不要で、反対に手数料収入が入るわけで、一石三鳥のメリットがある。
A貯蓄型の保険商品を販売することで、預金・投信・国債・年金・貯蓄型保険などの顧客預かり資産と融資(ローン)の一元管理ができる。これに証券仲介業務を加えて、個人富裕顧客層を中心にフルラインサービスで囲い込むことができる。土曜日に行員自主参加の形で年金販売研修を行うほど意欲的な都銀もある
B店舗のリストラで閉鎖支店での顧客離れが避けられない中で、扱いやすい長期の貯蓄型保険商品の販売により閉鎖支店の顧客を長期的につなぎ止めることができる。
<保障性商品の窓販の場合>
@銀行が本体窓販による信用(風評)リスクを恐れなければ、融資と回収(死亡保険付保)の一体的な顧客管理ができること。言わば歩積両建の保険版で、顧客が万一の時は死亡保険で貸金が完全に回収できる。
A渉外行員は顧客企業の財布の中身(会計、税務)と貸金との両睨みで仕事をしており、逓増定期保険のような中小企業向けの事業保険が最も売りやすい。節税・利益の平準化などのコンサルは渉外行員にとっては本業の基本動作であり、この種の保険は渉外行員なら誰でも売れる。嵩の大きい契約が取れるので、渉外行員とは別に中手企業向けに保険販売専任部隊を整備することも可能。
B地域金融機関の場合、小口の定期積金に低額の死亡定期や第3分野商品をセット販売することで、収益単価を高めることが可能になる。

★どうなる?全面解禁時の窓販の類型

 弊害防止措置の内容の如何を考慮しないで、第1・3分野の制約無き全面解禁を前提にした場合のバンカシュアランスの形態は、おおむね次のような類型が考えられます。
 A:カウンターセールス=店舗内で次の2つの販売形式が可能となる。
 @保険専用カウンターセールス=いわゆるカウンターでの窓口販売であり、説明に時間がかかる保険商品の販売は困難で、銀行窓販の主体にはなり得ない。通販レベルの簡易告知型かつシンプルな保障内容の第3分野商品、固定金利型の定額年金商品、定型的な貯蓄型商品などの単品販売や、低額S(保険金額)の定期保険または簡易告知型第3分野商品+定期積金などのセット販売が可能。
 Aプライベートバンキング(PB)サービス=資産家・富裕層向けに専任のFA行員が店舗内でコンサルティングを行う。一時払変額年金や外貨建利率変動型定額年金、一時払養老・終身など各種の高額貯蓄型商品のほか、ユニバーサル型商品、さらには逓増定期保険など死亡保険の節税・相続対策プランまで含めフルラインの販売が可能。ただし、対象顧客は富裕層に限定される。
 B:渉外行員による販売=渉外行員(顧客廻りをする営業行員)が銀行顧客を訪問し対面でコンサルティングを行う。日本のバンカシュアランスの主体になる。多忙な本業営業に上乗せする追販ビジネスの範囲なら、低単価で説明が煩雑な単品商品の販売は敬遠される。資金シフト型の簡便な販売ができる一時払変額年金・外貨建利率変動型年金、一時払養老・終身保険など高額貯蓄型商品や、融資先中小企業向けの高額逓増定期保険などの販売が可能。都銀では各店舗に1名の女性コンサルタントを配置し、店舗内でのマネー相談と訪問コンサルティングを行う事例もある。保険専任の渉外行員を配置して保険販売する場合は上記PB同様のフルラインの訪問販売が可能。地域金融機関では、上記のほかに低額S定期または簡易告知型第3分野商品+定期積金のセット販売などが可能。
 ※上記のA・Bの販売形式の場合、保障性商品の場合は販売時点と給付時点にかなりのタイムラグがあるため、給付時にトラブルが発生する懸念がある。生保委託代理店において生保会社の第1・3分野商品の販売は媒介行為になるが(損保第三分野商品を損保代理店が販売する場合は委任行為)、銀行ブランドによる販売力が強いため、銀行側の顧客への説明義務の履行・危険選択の基本動作等に関わる販売責任と、保険会社の引受責任が乖離し捻れる懸念がある。トラブルが起きた際はブランド力のある銀行側に直接的な信用(風評)リスクが発生する。殊に大量販売が可能なBの場合、銀行が被る風評リスクは最大化し、本業の信用に影響を及ぼす懸念がある。
 C:既存の別働体代理店によるブース販売=間借りした銀行店舗内の専用スペースで、すでに保険販売に習熟している別働体代理店の使用人(FA・FP資格者)がコンサルティングする。あらゆる第1・3分野商品の販売が可能。銀行店舗内での販売のほか、他の使用人が銀行紹介先の個人客や企業・職域に出向いての訪問販売も可能。この形式では保険会社から別働体が代理店手数料を収入するので、銀行側に販売手数料収入は発生せずフロー収益拡大に貢献しない。よって顧客紹介を受けた銀行に間借りしている代理店が紹介手数料を支払うケースが考えられる(生保会社には手数料上昇要因となる)。1つの銀行で併行して本体渉外行員が訪問販売を行う場合は、専門の別働体使用人との同行・分担募集や、保障性・貯蓄性商品それぞれ取扱商品の棲み分けが可能。
なお、保険販売で実績のある別働体代理店が本体の保険窓販を一元的にマネジメントする形式も想定できる。また、市場適性に応じて乗合保険会社の営業職員や代理店との分担募集(代理店分担)も可能。
 ※別働体代理店は外形上、米国などで見られる買収による銀行の子会社代理店と類似するが、日本の別働体は関連会社に該当しない独立法人代理店で銀行本体との一定のリスク遮断が可能。なお、銀行の企業統治上、手数料収入面から別働体を本体連結の子会社代理店に再編する考え方があるが、本体との信用リスクの遮断が困難になる。すでに別働体が最適正化措置済みの独立代理店としての基盤整備(プロフェッショナル化)を果たしていることから、保険販売の主体性とリスク遮断の効果を勘案して現行別働体形式でのブース販売を想定した。
 ※保険専門の独立代理店たる別働体代理店には危険選択、給付時のトラブル懸念が少なく、販売責任と引受責任の捻れ懸念も少ない。トラブルの際は店舗貸しする銀行にも間接的な信用リスクが発生するが、プロフェッショナルな独立代理店が取り扱うためリスク頻度は低い。ただし、プロフェッショナルな保険販売体制を持つ別働体は現状では大手の都銀・地銀系の一部に限られ、大半の地域金融機関では本体渉外行員による訪問販売に依存せざるをえない。
 D:別働体代理店による販売=従来同様の販売形式だが、本体窓販全面解禁の影響を受けることになる(取扱種目の本体移転によるリストラ)。本体窓販のバックオフィス機能を備えるか、RM・リタイアメントビジネスなどのコンサルティング機能をさらに強化して本体窓販と協業する方向で生き残る。
 

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