●TLC会講演録「銀行窓販全面解禁と生保営業の課題」(1)(05年5月4日)
☆まず生保セールスの原点を再認識しよう
 銀行窓販の拡大、郵政民営化等々、生保営業に大きな影響を与える規制緩和が急ピッチで進んでいます。消費者利益の増大を趣旨にした保険・銀行・証券のサービスミックスの潮流は、今後ますます拡大していきます。銀行窓販全面解禁に象徴される販売チャネルの多様化は生保会社にとって、状況に応じてメリットもデメリットももたらします。声高に規制緩和に異論を唱えても、ひとたび噴き出した規制緩和の潮流は止まることも後戻りすることもありません。規制緩和の潮流に抗う前に脚下照顧、足元をしっかり見つめ直しましょう。生保セールスの原点は昔もいまも、そして将来も全く不変です。
 ニードセールスの真の姿は綺麗事ではありません。端的に、生保セールスとは「断られる仕事」です。優績者のほとんどすべての人は、初めは生保のセールスをやるつもりはなかったと言います。それがお客さまに断られながら仕事を続けるうちに、段々やりがい(職業価値・労働価値)を感じるようになります。無形商品であって非日常性商品の生命保険は、お客さまの日常生活では使われることがなく、商品の価値や効用が発揮できない特殊な商品です。死亡保険などは被保険者自身は永久に商品の効用を知ることはないのです(保険金受取人のみが効用を知る)。お客さまが商品の効用を実感できないのだから、生保のセールスは断られるのが当たり前なのです。むしろ、「万一」を現実に起こりうることとして考えたくもないお客さまにとっては、「万一」の話など全く余計なお世話以外のなにものでもありません。断られても断られても、万一の時、お客さまの家族の暮らしを守るために説得する。お客さまが生保商品の効用を実感するのは通常、販売後何十年も将来のことであって、セールスマンが感謝されるのは極めて希れです。それでもお客さまを守るという崇高な使命(ミッション)を果たすために、一生懸命かつ堂々と余計なお世話をする。それが生保セールスの原点です。欧米で生保セールスが「聖業・聖職」と言われる所以です。
 あえて妙な表現をするなら、ニードセールスの心構えで重要なポイントとは、「誠実にハッタリをかますこと」です。例えば死亡保険のセールスで、売り手本人は実際に万一の経験などしたことないのに、「万一の時は……」とお客さまに話しています。これはハッタリ以外のなにものでもありません。この場合、セールスする人は「万一の時、お客さまのご家族は恐らくこうなるだろう……」とイメージし、そのイメージをお客さまに伝えているのです。そして、売り手のイメージを伝えられたお客さまは、今度は自分が「万一の時はどうなるか……」とイメージするのです。つまり、生保セールスはバーチャルなイメージの伝播のプロセスなのです。セールスマンのイメージ力と訴求力が弱ければ、お客さまは具体的に「万一の状態」を現実のこととしてイメージできなくなります。そこで、「検討しておくから」と、とりあえず断るのです。よって、お客さまの心の中のカンバスに画を描くように、しっかりと誠実にハッタリをかますことが重要なのです。このイメージ力を現実化してセールス力のアップに繋げる方法が標準活動(例えば、2W・3Wなどの週間単位の成契活動)、すなわち基本動作の習慣化なのです。
 また、いまのお客さま(保有)を大切にして、見込客(新規)の紹介を頂くのがニードセールスの王道です。つまり保有と新規拡大は常に同心円なのです。「保全はお金にならない」などと言うのはアマチュアであって、保全を怠る(既存のお客さまを大切にしない)ものは新規も増えません。顧客数が1000人、2000人もいる優績者はなかなか保有のお客さまに会うチャンスはないから、お客さまのご家庭の記念日(家族の誕生日など)に合わせて、きめ細かくはがきや手紙や電話でコミュニケートします。よって、優績者ほど解約失効は少ないのが常です。保有の顧客基盤をしっかりグリップしているから、新規の紹介の輪がますます拡大するのです。長期勤続の優績者の多くは、お客さま本位の丁寧な保全から増額や、死亡保障から生存保障への転換、新規見込客の紹介拡大へと繋げています。
 今後の銀行窓販や郵政民営化の図柄がどうなろうとも、皆さんが生保セールスの原点を踏まえて、ニードセールスの基本動作を習慣化する努力をされていれば、生保セールスは永遠に不滅です。

☆縮小する死亡保障市場、拡大する生存保障市場
 少子高齢化の進行により、日本はいよいよ07年度から人口縮小の時代を迎えます。端的に言えば、ものを買う人使う人が減る時代となり、生保のお客さまが減っていく時代になります。戦後長く続いた右肩上がりの人口増の時代に培われた生保経営、生保営業政策、機関経営のあり方、さらには営業職員の給与体系まで含めて、お客さまが減る時代にふさわしいものに改革しなければなりません。人口縮小=生保市場縮小の時代において、営業現場で旧来手法の陣容拡大に固執するのは誤りであり、ニードセールスの基本動作を習慣化することで、一人ひとりの個人能力向上すなわち生産性向上に真摯に取り組む生保会社が勝ち組になります。TLCの皆さんはぜひ、各社の営業現場でリーダーシップを取っていただきたいと思います。
 かつて保障中核層として死亡Sの拡大に貢献してきた、昭和20年代生まれの現在50歳代の人口は1900万人を数え、最大人口階層を成しています。おおむね子育てが終わったこの世代は、「子育て期間中の万一の保障」ニーズは急速に減退もしくは消滅しており、個人保険の死亡S=新契約高・保有契約高の減少としてはっきり各社の営業成績に表れています。それは例えるならば、この10年間で大手生保1社分の契約高が消滅してしまうくらいの急激な変化です。
 では、この1900万人の最大顧客層が生保から離れてしまったのかというとそうではなく、一斉に生きるための生存保障=年金・医療・介護保障へとニーズ移転を起こし、死亡保障市場から生存保障市場の最大顧客層へと移行しているのです。一定の預貯金を備え「小金持ち世代」とも呼ばれるこの世代は、銀行による年金窓販の格好のターゲットとなり、いまやその中核顧客層を形成しています。また、医療・介護商品への転換契約の主体がまさにこの世代です。
 中でも医療・介護・傷害保険のいわゆる第三分野市場は、上記のような保障中核層のニーズ移転と、01年7月以降実施された国内大手生保会社・損保会社および損保系生保会社への市場開放措置に伴って、急速に市場規模を拡大しています。やはり少子高齢化の影響による保有台数の伸び悩みと自由化による価格競争で主体の自動車保険市場が縮小傾向にある損保会社が、最近はその本体においてオールチャネルで終身医療・ガン保険の拡販に傾斜しています。また、すでに大きな保有Sを抱える国内生保会社の場合は、第三分野の単品販売ではコスト的に見合わないことから外資系生保や損保会社との間で代理代行提携を行い、この分野で手数料ビジネスを拡大しています。
 これらの要因によって、いきるための生存保障市場は現在、急拡大していますが、いずれにせよ少子化が止まらない以上、第一分野(生保)、第二分野(損保)、第三分野(医療・介護・傷害保険)市場はいずれも将来的には縮小していくことになります。保険市場全体のパイが縮んでいく中で、社会保険の後退によって民間保険の生存保障商品のウェートが高まっていくという市場構造の変化を、まず正確に把握しておく必要があります。

☆銀行窓販全面解禁へのステップはこうなる
 生保会社の最大収益源である死亡保障市場が縮小し、年金などの貯蓄型商品や第三分野商品といった生存保障市場が拡大するという市場構造が変化している中で、最も強力なコンペチターである銀行が保険市場に全面参入することになりました。03年暮れに突然、金融庁から第一・第二・第三分野にわたる銀行窓販全面解禁の方向が打ち出され、翌04年3月には金融審議会ワーキンググループ報告の中で「遅くとも3年後(07年度)全面解禁」との時限が明記され、この問題が面に表れてから僅か4ヵ月足らずで07年度銀行窓販全面解禁の方針が一気に決まりました。過去そして今後の窓販拡大の主なプロセスは次の通りです。
<第1次解禁>生保は欧州型キャリア規制付で団信解禁
 97年6月の保険審議会答申で銀行の保険窓販解禁範囲(住宅ローン関連の長期火災保険等、生保は銀行による子・兄弟保険会社の設立条件=いわゆるキャリア規制付での信用生命保険)を明示。98年3月の政府・規制緩和推進3カ年計画策定を経て、2000年12月に金融庁が窓販解禁対象種目として損保の専用住宅用住宅ローン関連の長期火災保険、海外旅行傷害保険、債務返済支援保険と、生保はキャリア規制付での信用生命保険を公表。実質的に01年4月からキャリア規制の無い損保3種目の窓販開始。
<第2次解禁>生保キャリア規制撤廃し年金窓販解禁
 銀行業界各団体がキャリア規制等の撤廃、窓販対象商品の拡大、関連会社規制の見直しなどを要望。01年12月に総合規制改革会議が保険窓販全面解禁を指摘。金融庁は銀行業務との親和性・利便性の観点から解禁拡大種目を検討、02年3月に金融審金融分科会第二部会が窓販対象種目拡大の見解公表。生保は信用生命保険のキャリア規制を撤廃するとともに、新たに個人年金保険の定額・変額商品、財形保険、損保は併用住宅用住宅ローン関連の長期火災保険、年金払積立傷害保険、財形傷害保険を追加。02年10月から上記種目の拡大窓販実施。ペイオフによる地域金融機関の資金流出防止対策支援の側面もあったが、ペイオフは05年4月に延期。変額年金、外貨建利率変動型定額年金の窓販が急拡大し、銀行がリタイアメント(退職者)市場開拓の主役に。
<第3次解禁>貯蓄型商品を追加し弊害モニタリング
 銀行に対する公的資金注入、証券仲介業務解禁・保険窓販解禁などのフロー収益拡大措置(アメ)と、不良債権処理の厳格化(ムチ)を使い分ける金融行政の中で、03年秋以降、金融庁は保険窓販全面解禁の方向を固め、12月の生損保両協会会合で方針を示唆。04年1月以降、金融審金融分科会第2部会WGで「銀行等の保険販売規制見直し」を検討、3月末に「05年度から段階的に拡大して弊害防止措置の実効性を検証し、遅くとも3年後(07年度)までに全面解禁すべき」旨の報告をまとめる。05年度からの窓販拡大はペイオフ対策支援の要素もある。07年度全面解禁の主因は郵政民営化(民間金融機関の郵便局での郵貯・簡保サービスミックス)とのイコールフッティングで、17年度までの郵政完全民営化(第三分野単品販売、損保販売、簡保保障制限撤廃など)のタイムスケジュールをも視野に入れた言わば前倒しのアメを与えることで、郵政民営化への銀行業界からの反発を押さえ込みたい意図が読みとれる。全面解禁に向けて金融庁は弊害防止措置(内閣府令)を策定中で、(本稿執筆の12月2日時点で、生保業界との間で最終的な詰めを行っており、近くパブリックコメントが開示・集約される見通し)、弊害防止ルールの有効性をモニタリングするために、一定の顧客ニーズが見込める第一・第二・第三分野の貯蓄型商品について05年度から取扱種目を拡大するのが、第3次解禁の趣旨。主な追加種目として、第一分野:一時払養老保険、一時払終身保険、第二分野:積立火災保険、第三分野:積立傷害保険などが予想される。
<第4次解禁>第1・第2・第3分野全面解禁へ
 郵政民営化同様に政府与党内の反発があり、本稿執筆時点では施行規則に何らかの時期の表現が織り込めるかどうかは不明だが、郵政民営化にリンクした規制緩和であり、少なくとも金融行政内の07年度全面解禁路線は不変。現行の保険業法上は、銀行等による保険販売は契約者保護に欠ける恐れが少ない場合(275条)に、「例外的」に施行規則で種目を限定列挙して認める条文となっており、第4次解禁ではこの例外規定が撤廃され、銀行による保険販売は原則自由となる。したがって、法律論の範囲で言えば、第一分野の死亡保険から第三分野の医療・ガン保険に至るまで、銀行が自由に販売できることになる。第3次解禁でのモニタリングの結果によっては弊害防止ルールがタイトになり、銀行窓販の自由度が制約される場合もある。
 以上の段取りで銀行窓販が拡大していきます。04年12月初旬時点で弊害防止措置のパブリックコメントの開示が行われていないので、弊害防止措置策定後6カ月の準備期間を経て追加種目の窓販を行うという取り決めに従えば、第3次解禁は05年夏以降、おそらくは10月頃になるものと予測されます。

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