●プロ代理店の発展段階別インフラ整備のあり方・再改訂版(2002年8月20日) 

◎リスクソリューション=TRMコンサルティングを売るプロ代理店経営
自由化以前は価格統制の下、損保業界には顧客指向のマーケティングが無かったといっても過言でない。種目縦割りの商品開発・販売政策が行われ、とりわけモータリゼーションの発展に伴い、自動車保険偏重型のプロ代理店が多く輩出されてきた経緯がある。しかし、その結果として更改主体の通販的な募集を行う足腰の弱い代理店が大量に生み出され、今日、彼ら自身が将来不安を抱える状況に陥っている。
 
 昔も今も顧客ニーズは損害補償・生活保障のトータルリスクマネジメント(TRM)を望んでいるのであり、単一のリスクヘッジで満足している顧客はいない。お客は誰しも保険の専門家である保険代理店が安心できる保険会社とその商品やサービスを知悉・選別し、自分が抱えるリスクにピッタリの保険プログラムを設計して欲しいと願っている。もとより独立代理商として自分の顧客を抱える保険代理店は、保険会社のセールスマンではないし、保険証券の運搬人や集金人でもない。しばしばプロ代理店が自ら強調する事故処理サービスやFPサービスなども、その職能のごく一部でしかない。
 
 お客が抱える損害補償と生活保障のリスク要因について、既契約の補償も含めてモレやダブリのない完全オーダーメード型のリスクソリューション=TRMコンサルティングを提供することが、プロ代理店の使命=ミッションである。
 
 プロフェッショナルなコンサルティングによって保険コンサルタントとしてのブランドを地域の優良顧客に訴求し、地域におけるプロ代理店のブランドと保険会社のブランドとの相乗効果で顧客満足を高め、生涯にわたって優良顧客をグリップし、かつ優良顧客の輪を拡大していくことがプロ代理店における「勝ち抜くマーケティング」の要諦である。
 
 その仕事を端的に言うなら、地域で信頼されるプロ代理店がお客の財布(損害補償・生活保障にかかるコスト全体)を預かり、ムリなくモレなくダブリなく常に完全補償を提供するTRMサービスを提供しなければならない。

 将来的な損保手数料水準の低下傾向に目を向けると、顧客単価を上げる方法は唯一TRMサービスの提供に行き着く。名寄せによる付保状況の把握→TRMサービスの提供を指向することで、旧来の「更改・集金・運転」というプロ代理店の3大非効率要素(代理店3悪)を是正することが可能となるであろう。TRMサービスの提供を指向して、この際、複数のプロ代理店が合併・統合してコンサルティング体制を備えるのも一法だ。
 
〈勉強型・先行投資型のプロ代理店が発展する時代になる〉
自分がモノを買う時そうであるように、お客は常にわがままなものである。お客が100人いれば100通りのニーズがある。プロ代理店は、お客が気づいていないリスクまで洗い出しTRMサービスを実行しなければならない。自分のお客は満足していると思うな!お客に対して常に謙虚な姿勢を保ち続け、お客のために終生勉強し続けなければならない。そして、お客のために先行投資を継続し続けなければならない。経営のすべての意思決定の基準は顧客満足である。すべてはお客のために。

 お客に最善の保険サービスを提供するために、どのような勉強をすべきなのか?
 一般的な保険代理店は保険販売に関わる商品・事務処理・保険制度・税務などの知識や、事故時の事故処理サービスなどを具備している。しかし、例えば、商品メーカーたる保険会社の損益状況や資産・負債状況、資産運用のあり方などを知悉し、分析・評価できる保険代理店はほとんどいない。これでお客にとって最善の保険プログラムを提供することが可能なのか?保険代理店は独立代理商であり、独立した保険コンサルタントである。常に保険本業の勉強をさらに広く、かつ深めなければならない。お客のリスクマネジメントを担ってる以上、若手のみならず70歳、80歳になろうとも勉強を継続しなければならない。プロの仕事は勉強がシンドクなってきたら引退するのみである。お客を守ることができないからだ。
 
 近い将来、プロ代理店はTRMコンサルティングから資産運用コンサルティング(家計や企業のバランスシートマネジメント、ALM=アセット・ライアビリティ・マネジメント=資産・負債総合管理)まで行う一部のアッパー層およびその予備軍、営業社員・金融機関等からの資源移転などで構成されるプロ群団と、特定保険種目の販売を主体とするその他大勢の旧来型群団とに急速に2極分化していくだろう。
 
 従来、周辺知識と言われていた税務・経理・FPなどはTRMコンサルティングにおいて、すでに本業の必須知識となっている。リスクと運用のプロすなわち家計と企業経営のよろず相談係になるための有効な勉強方法とは何か?実務経験に勝る有効な勉強方法は無いが、しかし経験まかせでは時代変化のスピードに乗っていかれない。社会的に認知され、カリキュラムが出来上がっている資格取得にチャレンジする方法が最も効率的である。中小企業診断士、社会保険労務士、AFP・CFP、証券外務員資格などに1つ1つチャレンジすることだ。仮に資格が取得できなくても、勉強した知識は仕事に生かされる。お客は代理店歴より勉強歴でかかりつけの保険代理店を選別する時代になる。

〈地域一番店としてのインフラ整備、協業・合併も視野に入れる〉
 保険代理店が21世紀の保険大再編・大競争時代を勝ち抜くための基本課題は、@どのような事業家を目指すのか、コアコンピタンス(本業のウリモノとなる専門知識・技術)は何か、地域のお客様に何を訴求するのか、経営に対する思い入れを従業員にいかに伝えるべきかなど、思考の限りをつくし経営理念(ビジョン=簡単に言うと経営のキャッチフレーズ)、使命(ミッション)を自分の言葉で表現、策定、明示し、または見直す、A内部的課題としては、TRMサービスを行う付加価値の高い「地域一番店」としてのインフラ整備(営業店舗の開設、ITフル装備、法人化、顧客データベースの構築、専門家ネットワークの形成、スタッフコンサルタント=従業員の雇用・育成、あるいは単独でのインフラ整備が困難な場合は協業・合併など)を急ぐ、B市場開拓については、TRMコンサルティング・ビジネスとしての優良顧客創造型マーケティング(生損保さらには金融商品まで含めたフルラインサービスの対象となる優良顧客の囲い込み)を実践する ― の3点に集約できる。

 とくに経営理念=キャッチフレーズの表明に当たっては、感性を研ぎ澄まし、地域市場(商圏)の誰に訴求するのか、コアとなる顧客(見込客)層を特定し、その人たちが受け入れやすい表現を用いるところからマーケテイングがスタートする。漠然と商圏を眺めていてはいけない。 
 
 いうまでもなくプロ代理店は独立代理商(事業家)であるから、他の誰もその経営を代替したり主導することはできない。経営者自ら年限を区切った発展ビジョンを策定し、その年限内に必ず達成することによってのみ発展していくものだ。価格競争の進行と一般小売店の減少傾向を認識すれば、いま「食える」からと生業段階に止まっていたのでは、将来の展望は開けない。腹をくくって先行投資をし、早期に実業段階へとステップアップしていかなければならない。

 後継者不在などでインフラ整備を自力でクリアできない場合は、時代の変革のスピードは個別代理店の事情や都合を忖度してくれないので、協業・合併に踏み切ること。この場合、1国1城の主同士が経営をひとつにするのだから、小異を捨て大同につく踏ん切りが必要だ。そして、1度や2度の組み合わせの失敗はあるのが当たり前で、うまくいかなければ何回でもやり直せばいい。マネジメント能力の高いリーダーが主体となり、顧客層や得意技が異なる者同士の組み合わせが成功する可能性が高い。協業・合併を積み重ねることにより、手数料収入が1億円規模になると、独自に先行投資する余力が見込める。一方、協業・合併のリスクをとる決断ができない場合は、割り切って一代限りで保有契約を他の優良代理店に売却する方策を考えると良い。 

 損保主体型プロ代理店の場合、手数料収入の持続的拡大を実現するには、当面、生保販売の取り組みを強化することが重要なポイントになる。生保販売が持続的に拡大しているプロ代理店には、生保専任の従業員がいるケースが多い。一人親方で生損保併売を行う代理店の場合は、生保の見込み客が一巡すると、途端に生保新契約がストップしてしまう。従業員雇用、合併にあたっては生保専任者の確保という観点で判断するのも良い。

 社会の構造改革が進み、世界的に保険会社の合併・統合が進んでいる中、代理店だけが改革のらち外に置かれるはずもない。いま変われない者は消え去るのみだ。環境変化への洞察力と先行投資に対する決断力で、経営者の能力評価が決まると言っても過言ではない。とくにコンサルティング・ビジネスを展開する独立起業家(アントレプレナー)は、自由化の新しい状況に対応するのではなく、自由化の中で自ら主役となって新しい状況(市場)を創造していく気構えを持たなくてはならない。およそ人の後に付いていくものに成功はない。すなわち、市場の潮流をいち早くキャッチアップせよ。

 旧来の自立した損保プロ代理店の手数料構成は、おおむね単品更改の自動車保険手数料が6〜8割を占めている。損保事業の引受利益の約8割強が自動車保険で占められているのと相似している。護送船団下、一律の付加率と手数料率が確保されていた時代はもはや過去のことである。例えば米国ステートファーム社の自動車保険手数料率は加算手数料込みで約9%で、日本社の半分の水準である。やがて、損保の手数料水準はなだらかに低下していく。獲得しやすい自動車保険を軸にした損保主体の手数料収入の構成が変わらなければ、手数料収入は先細りとなる。TRMサービスの提供は消費者ニーズに対応するものだが、代理店経営上からも生損保フルライン・フルサービスによる手数料収入の拡大を約束するものである。顧客の生保・年金・アセットマネジメント=ストック資金と、損保=フロー資金のトータルマネジメントを目指す必要がある。

 損保会社の収益は、収入保険料×(1−事業費率−損害率)で求められる。同様に保険代理店の収益は、収入手数料×(1−事業費率−損害率)で求められると考えれば良い。損保自由化により、保険代理店が自動車保険の単品更改主体の営業でやすやすと手数料が稼げる時代は終わった。自由化前後のこの10年、代理店経営の基準は挙績→収入手数料(粗利)に変わり、今後は価格競争の進行に伴う付加率圧縮→損保代手水準の低下傾向が不可避となるであろうから、単純に入口の収入だけ見ていたのでは経営とは言えない。代理店も一歩進んで、保険会社同様に「収益」重視の経営を行わなければならない。
 
 すなわち、生損保フルラインサービスで入口の収入手数料を拡大するとともに、事業費率を改善(代理店の場合は「単品更改・集金・車の運転」という非生産的な旧来型営業、内務などにかかるコスト・時間を含めた業務プロセスを改革)し、生産性を高める一方、損害率を改善(アンダーライティングを強化し、ロスの高い契約は引き受けない。保有契約のロスが悪化したら、損害防止活動を励行)することが経営発展の基本となる。

〈育成期〉長所を伸ばせ!ひたすら勉強せよ!
 <損保手数料400万円・挙績3000万円以下の層。プロ代理店の生保販売には未だバラツキがあるので、損保手数料収入で便宜的に発展段階を区分>「夫婦共稼ぎで食べていければいい」では、自由化の中で消滅した他産業の小売店と同様の運命をたどることになる。育成段階では、まんべんなく仕事をこなそうとするな。自分もお客も長所を見よ。楽しく仕事ができる。まず長所を伸ばせ。長所が伸びれば短所はなくなる。ともかく基盤の損保の得意種目・得意技を確立し、生保も医療保険などの売りやすい第3分野商品を販売して一にも二にも顧客数(軒数)拡大に邁進する。当初挙績・手数料バランスにバラツキがあってもかまわない。その上で段階的に多種目販売のクセをつける。
 
 およそ「個性」のない者は事業者として成功しない。しかし、手前勝手な「個性」に甘えていつまでも単品取引(自分の都合)にあぐらをかいているような者はコンサルタントとして成功しない。TRMサービスが早く提供できるように、寝る時間を惜しんでひたすら勉強する時期だ。

 この段階は「自立期」への移行経過期間であり、できるだけ短期間でランクアップしなければプロ代理店として成功しない。研修生の場合、損保挙績 3.000万円以上が独立の最低要件となる。常に足も頭も動かすこと。「人縁」を自分のビジネスを発展させてくれる「人脈」に代え、生損保フルサービスが可能となる「リッチマーケット」をつかめ。なお、保険会社が研修期間中にコストをかけている研修生OBの場合、ノンマリン一般挙績 5.000万円までは保険会社に「借り」がある状態であることを忘れては成らない。

 
 〈自立期〉借金して人の集まる所にハコをつくれ!
 <損保手数料600万円・挙績5000万円前後の層>一般的に事業は借金してハコ(店舗・事務所)を設け、法人手続をしてスタートするものだ。プロ代理店の場合は経営のインフラ整備が後回しになるケースが多い。当面、「成長期」「経営転換期」までのインフラ構築(営業店舗の開設 → ITフル装備 → 法人化 → 顧問弁護士・税理士など専門家ネットワークの形成→ スタッフの雇用)を中心に年限を区切った発展ビジョンを策定する。自ら決めた年限は1日でも遅らせてはならない。事業者を成功へと駆り立てる原動力は、自らの強固な意志である。事業の発展は始めに借金(先行投資)ありきが原則。まず、可能な範囲で借金をして来客型の営業店舗を開設すること。借金(先行投資のファンド)は事業を行う以上、終生継続するものだ。手数料増収への最大のバネは借金である。

 コンサルタントの店舗(事務所)は自宅併用であれ専用であれ、コンサルティングスペースであって事務処理スペースではもちろんない。プロ代理店も弁護士、税理士等と同様、基本的に自らの店舗(事務所)で来客に対しコンサルティングすべきだ。なお、弁護士や税理士の事務所は用事のある顧客だけがやって来るが、保険代理店の場合は「保険のコンビニ」として、顧客のみならず地域のフリーの見込客の来店が望ましいわけで、お客の利便性の面から、ビルやマンションの中の奥まったスペースに事務所を置くのは不適当である。営業店舗そのものが地域における最も効果的なPOP広告となることを知らなくてはならない。
 
 保険代理店が店舗を開設しても客は来ないと、わけしり顔で言う者がいる。如何にすれば来店してもらえるか、商いのイロハを工夫することすら考えようとしない者が成功するはずもない。事前に商圏の人や車の流れを調査し、地域の客が集まりやすい所に店舗を開設すること。車社会の地方では、車を寄せやすい所に店を開く。コンビニがどこに店舗を設置しているかを見れば分かるだろう。すべては商圏のお客の都合でものを考えよ。自分の都合で勝手に店を開くな。投資余力がない代理店は大型流通業店舗やSS、コンビニなど集客力があるものの近くにパラサイトしてもよい。来店率を高める方策は無限にある。

 地価の安い地方市場で、お客用の駐車スペースのある営業店舗を備えた有力プロ代理店の多種目販売率が顕著に伸びている。来客には若干のプレゼントを贈る(100円ショップの商品でいいから、四半期ごとにプレゼントの品を替えると、お客は「あそこに行くと良いことがある」と思うようになる)などして、お客の来店意識を刺激し、できるだけ来店させるように「躾け」ている。コンサルタントがコストと時間を使って出掛けていく場合は、原則としてプレゼントは無し。全体的に夫婦共働きが増えている中で、会社やパートの帰り、用事のついでにお客側の都合で来店を希望する人が多くなっている。プロのコンサルタントたる者は集金がサービスなどと思うな。

 お客が来店すれば、店に顧客別の損保追販メニューや生保併売メニュー等の仕掛けを常備しておくことで、店主がコンサルティングで不在であっても、スタッフの手によって生損保多種目販売が進展するのだ。ITフル装備型の店舗を備えるのが困難な場合でも、せめて接客用カウンターや機能的な応接セット程度は備えなくてはならない。机の上に証券や帳簿が山積みになっているような代理店の客離れは、今後加速する。
 
 言うまでもなく「単品更改・集金・車の運転」はコンサルタントの職能ではない。車の運転中の生産性はゼロである。営業店舗の開設はこれらの非生産的な「代理店3悪」の時間を軽減し、本来の職能であるコンサルティングの時間を拡大するために必要なのだ。「保守的な土地柄だから、集金が当たり前になっている」という代理店と同じ地域に集金をやらないで顧客の信頼を得ている代理店が必ずいる。いまや代理店計上は当たり前、そして今後は客先計上の時代になるのだ。自分の事情に基づく旧来の常識や固定観念はあっさり捨てる勇気を持て。
 
 プロのコンサルタントとして成功するには、お客の目線、動線に即した利便性を追求することと、その一方で、誤解を恐れずに言えば「お客の躾け」も必要だ。保険コンサルタントとは白地の顧客に対する保険教育者であることを自覚しなければならない。「忙しい忙しい」と走り回っている代理店の大半は「客の躾け」ができていない場合が多い。客を躾けられなければ(保険教育によって客に信頼感、安心感を抱かせることができなければ)、何かにつけ呼び出され、コンサルタント・ビジネスにおける大切な時間を客に使われてしまうので、あたらビジネスチャンスを逃がし、収入が伸びない。客に時間を使われると、例えば「リッチマーケット」に対する高額の死亡保険(生命保険)等、ニード喚起が必要な保険を売る時間がなくなってしまうのだ。

 コンサルタントがその職能(付加価値)を発揮するには、コンサルティングを期待しない客(例えば、コンサルティングを受け入れずに単品単純更改に固執する客にはコールセンターもある)に時間を使われてはならない。あくまでもビジネスチャンスを拡大するために、自らの大切な時間は自らの裁量で有効に使うのだ。きちんと教育を施しているトッププロの場合、「24時間事故受付」を売り物にしていても、営業時間外の呼び出しはほとんどない。コンサルタントは常に「顧客のリスクマネジメントにおける主役」でなければ成功しない。時間と人脈を自在に使える者だけがトッププロになれるのだ。
 
 日常のマーケティングでは、生損保フルライン・フルサービスによるTRMサービスを基本動作とする。生保は着実にライフプランニングを習得し死亡保険、第3分野商品の連月取り組みにチャレンジする。そのために上記のように、日常の営業活動時間を合理化し生保の「説得」に要する時間を確保すること。

 この段階のインフラ整備の一番のポイントはITに習熟し、顧客の構成員ごとに名寄せした生損保データベース化(付保状況一覧)を進めて、データベース・マーケティング(優良顧客創造型マーケティング)の基盤を構築すること。顧客(見込客)情報は代理店の大切な財産であり、家族履歴まで集約したデータベース化を進め、顧客単位の生活保障に関わるリスク要因(死亡、老後、医療・介護など)、損害補償に関わるリスク要因(財物=建物・家財・自動車など、賠償責任、休業損失、利益、信用など)別の付保状況が一覧できるリスクレーダーチャート(蜘蛛の巣チャート)を構築することができればベストだ。顧客単位のリスク管理データベースなくして予算(手数料収入)設定の根拠なし。現在の手数料収入に対して、自分の事情や根性論で何%増収などと根拠のない予算を立てるな。上半期または下半期、さらには四半期ごとに、顧客一人ひとりの生損保リスクレーダーチャートがモレやダブリがなく段階的に円形に近づくように付保を進め、全顧客分の追販分の累計が予算の根拠となるのだ。顧客データベースの構築は可能なレベルから着実に進めていくこと。
 
 コンサルティング・ビジネスにおけるマーケティングとは、極論すれば、自らの経営拡大にメリットをもたらす「生損保多種目販売(TRMサービス)の対象となりうる優良客=リッチマーケットを創造する一連の取り組み」といってよい。
 
 ※生保併売のポイント=損保主体の自立期レベルの代理店の場合は、売りやすい第3分野商品や無診査契約の件数を出して生保販売に慣れることが第一。生保既契約への重ね売りが有効。同時に着実に証券分析、ライフプランニングの手法、話法に習熟し、個人客を超長期にグリップするために死亡保険の連月取り組みを励行する。生保手数料の使途例=当初段階は先行投資のためL字払いでOK。営業店舗開設(またはリフォーム)費用の一部、店舗賃借料、IT化費用等の必要なものに充当。

 
 〈成長期〉TRMサービスを本格展開せよ!
 <損保手数料1200万円・挙績1億円前後の層>顧客単位のデータベースの構築(この段階では保険会社のデータベースを活用してもOK)を完了し、生損保フルラインのTRMサービスを完全に基本動作とする。中でも死亡保険のコンサルティングに習熟し、フリート先などへの事業保険のコンサルティング販売に着実に取組む。スピーディーに事業家としてステップアップしたいのなら、まずはパート雇用で構わないから従業員雇用にチャレンジすべし。
 
 本来は自営業者の開業要件だが、遅くともこの段階までに必ず法人化を完了すること。法人化したところで、もちろん数字が伸びるわけではない。だから法人化は必要ないという代理店には、お客側の視点が見えていない。
 極論すれば法人化せずに法人マーケットは開拓できない(経営者同士のトップセールスにおいてマナー違反)。法人化とは、公の金と私の金を分けて財務・経理を明確化し、事業継続へのタネ銭(資本金)を置くことにより、事業者としての社会的信用基盤を確立することだ。顧客にとって「保険は不動産の取得に次ぐ高い買い物」なのだ。インフラ整備はすべからく消費者・顧客の要請と心得るべし。雇用契約の営業職員とは異なり、自らのプランドでコンサルティングを行う独立代理商のプロ代理店にとって、法人化は必須条件であることは論を待たない。
 プロ代理店は、プロフェッショナルなコンサルタントとしての職能を持つ事業者である。とくに顧客の一生涯にわたる生活保障を担う生命保険を扱う以上、法人格という事業者としてのインフラ確立はお客から要求されていると認識すべきだ。お客の生涯を守る経営体制を備えられないなら、終身保険は売れない。
 
 挙績1億のバーに達すると、プロ代理店として成功への道筋の緒に付いたといえる。ベースマーケット(確実に優良客の紹介が得られる人脈)が確立し、有力客の数も増えてくる。これにより、有力客を自らのブレーンとして活用し、地域交流・異業種交流のプロデューサーあるいはコーディネーター役となり、ベースマーケットは一層拡大する。こうしたダイナミズムが働いている時こそ、一気に経営のインフラを拡充し、生業から実業へとステップアップしなければならない。市場や顧客層、得意技(付加価値)の異なる他代理店との協業・合併、あるいは後継者不在の老齢代理店の契約(顧客)買収も視野に入れる。協業・合併の効果が期待できるのはこの段階以上のクラスである。
 
 実業転換への基盤固めとして、法人化完了、完全IT化によるデータベースマーケティング(優良顧客囲い込み型マーケティング)を行い、専門家ネットワークの形成、企業・モーター・税理士チャネル・銀行別働体等地域特性に応じた提携分担(紹介・業務・手数料分担、事故処理サービス提携など)、スタッフ雇用準備、コンサルティング設備フル装備型店舗へのリフォーム、来店客への道案内としてのPOP広告、メディア広告戦略の展開等々、着々と体制整備に取り組むことにより、さらなるランクアップへのインセンティブ(刺激)を自らに与えることが肝要。

 返済力のあるこの段階でまとまった借金をして、ハコ・モノのインフラを拡充したり、ロケーションの良い所に店舗併用住宅を新築するのもよい。この段階で思い切って事業として上昇気流に乗らないと、夫婦二人経営から脱却できずに生業で終わることになる。年限を定めて一気に駆け抜けること。店主一人営業+アルファのこの段階までが最も忙しく、かつプロの保険コンサルタントとして手応えを感じる時期だ。
 
 ※生保併売のポイント=手数料はL字払いから平準払いへ。TRMサービスを基本とするが、インフラ拡充を急ぐ場合は手数料単価の高い生保販売に注力したい。第3分野商品や無診査契約の重ね売りなどで件数を出す一方、死亡保険のライフプランニングによるコンサルティング販売に注力し、お客にとってのオウン・コンサルタントの座を勝ち取る。フリート等の実績を生かして生保事業保険マーケット開拓にも定期的にアプローチ。経営者の個人保険を獲得するのが中小企業開拓の要諦。生保手数料は店舗リフォーム費用、店舗賃借料、完全IT化費用、パートスタッフ雇用経費、法人化経費、税理士等顧問料などの必要なものに充当。

 
 〈経営転換期〉スタッフを育成し、マネジメントに転換せよ!
 <損保手数料2000万円前後・挙績1億5000万円〜2億円前後の層>TRMサービスを徹底する一方、顧客のアセットマネジメント(資産運用)ニーズにも対応できる体制整備を目指す。顧客データベースに基づくTRMサービスを提供するが、顧客数が多くなることから、@スタッフ全員がTRMコンサルティングを行うケース、A店主など一部の者がTRMコンサルティングを行い、他に主に損保担当・主に生保担当のスタッフを置くケースがある。いずれの場合も、顧客一人ひとりに対し代理店としてTRMサービスを指向、実践していくことに変わりはない。

 協業・合併の主役となり、契約買収も積極的に進める。他の各種チャネルとの提携・分担、他業の専門家(金融機関の渉外行員・FP行員、証券外務員、独立系FP、中小企業診断士など経営コンサルタント、税理士など)との協業化も視野に入れる。

 ●スタッフの雇用
 日本のプロ代理店の発展(実業化)のカギを握っているのが、このクラスである。業容拡大に伴いスタッフをオートマチックに雇用・育成できるかどうかで、生業で終わるか、実業に脱皮できるかが決まるといってよい。
 
 粗利(損保手数料収入)2,000万円前後になると、夫婦二人ないし+パート従業員体制ではかなり忙しいものの、経営的に安定し、とくに地方では十分ゆとりのある暮らしが営めるようになる。店主は保険コンサルタントとしての職能に自信を持ち、地場中小企業・団体等の「リッチマーケット」を一定程度グリップし、これらの有力顧客に対して「よろず相談」できるだけのキャリアも積んでいる。それまでガムシャラに走ってきて、やっと一息つける「踊り場」段階であり、安定期にはいる。
 
 こうして日々、安定感にひたって過ごしているうちに、いつしかハングリー精神が薄れ、更改(既得権マーケット)と単価アップ主体の取引に傾斜し、新規軒数の伸びが止まり、やがて店主の加齢に伴い行動半径が縮小し、顧客の世代交代(コミュニケーションギャップ)に対応できなくなり、既得市場の縮小再生産(客離れ)が進み、粗利も減少していく。店主の活動時間が更改・集金・移動(運転)に7〜8割も費やしている代理店に、明るい展望は拓けない。

 縮小再生産に入ると、もう実業への転換は困難となる。このクラスの大半のプロ代理店が実業化を目前にしながら、スタッフ(従業員=コンサルタントビジネスにおいてはスタッフ・コンサルタント)の雇用に踏み切れないばかりに、生業段階に止まっている。事業家ならプチブル(小金持ち)精神を捨てよ。
 
 スタッフの雇用に踏み切れない理由は、ともかく一つ財布から出費(賃金)は嫌だとか、現状のプチプル的生活に満足しているといった事業家・起業家意識が欠如しているケースもみられないではないが、多くは@従業員の独立問題への懸念がある A「人を使うこと」に不適格と思っているので営業一人親方でやっている B現状でやれているので人手はいらない ― 等の理由による。
 
 仮に、世間一般の常識で粗利(収入手数料)1億円以下を零細事業というならば、損保業界におけるトッププロ代理店といえどもその大半の経営は零細な実態にあり、スタッフが慣れた時点で契約(顧客)を持って独立されると、ダメージは確かに大きい。しかし、どこの会社でも独立する従業員はいる。専門性が高いコンサルティング・ビジネス(税理士、弁護士、経営コンサルタントなど)ほど、むしろ初めから独立が前提となる。将来の独立を恐れていたら、スタッフの雇用・育成は永久にできない。むしろ、将来プロとして独立するくらいの気構えのない者は、雇用しても業容拡大に寄与しないといってよい。子供に承継する場合でも、「老いては子に従え」を忘れてはならない。
 
 一般的に企業は事業の継続的発展(ゴーイングコンサーン)のために優れた人材を雇用し、後継者を手当する。独立代理商であるプロ代理店を開業したときから、実はすでにこの道を歩んでいるのだ。店主に何か事があったときに、いうまでもなく、代理店が自らの権限で契約を締結した顧客に対して保険会社の社員が対応するような体制であってはならないのだ。極論すれば、スタッフを雇用しない状態は、どんなに挙績が大きい代理店であっても、保険会社に依存した格好の悪い経営状態にあるといわざるをえない。
 
 その代理店を選択し、契約を締結した顧客側からいえば、常にその代理店に対してフルサービスを望んでいるのであり、「スタッフが独立されたら困る」とか、「人を使うのが苦手」とか、「人手は不要」といった代理店側の都合や事情を押しつけられたのではたまらない。
 いずれにせよ、店主営業・妻内務+αの二人三脚体制で、お客に提供し得る付加価値のメニューは限られている。お客は自動車の事故処理サービスだけをあてにしているのではない。
 
 一方、最も大切な人生のパートナーの側からもその有様を考えてみる必要がある。「妻と二人で20年やってきて、思い切って従業員を入れたところ、初めて妻がプライベートな時間を持つことができた。これがスタッフ雇用の最大の効果だ。」と述懐する人もいるのだ。
 
 ともかく、人を入れる前に悩んでも始まらない。「人の問題」は人を入れてみなければ誰も分からない。法人化し、スタッフを雇用して始めて独立代理商の基礎が確立(実業化=一人前の事業者の仲間入り)するのだから、腹をくくって雇用してみることだ。失敗したら、自らの非を見つめ直し、反省し、その上で何回でもチャレンジすればよいではないか。従業員雇用の際、ごく当然の事ながら、自らの経営ポリシーに則って基本方針、就業規則を定め、給与体系も明示すること。
 
 長年のプロ代理店観察の経験則でいうなら、腹をくくって最初にスタッフを雇用した時の手数料の伸びが最も大きいのが通例だ。もちろん新入りのスタッフが数字を挙げるのではなく、雇用コスト(妻の時間作りのためのコストと考えれば安いものだが)に刺激を受けた店主のハングリー精神が呼び起こされるか、あるいは実業転換への前向きな情熱が湧き出すことにより、改めて店主の契約奪取の基本動作が強化されるためだ。
 
 ●スタッフの使い方
 日本のプロ代理店の実業家が遅れた要因の一つとして、前近代的な法律・募集制度用語の存在が指摘できる。従前の募集取締法のように、損保代理店を一人親方による一代限りの生業の範囲内で捉えて、時として間違いを起こすこともあろうからと取締まるための法律を戦後約50年もの間維持し(96年の新業法により、やっと改正)、これに基づく募集制度用語には未だに「使用人」という特殊な用語が用いられている。もし、これが一般企業同様に「従業員・社員」であったならば、プロ代理店の実業化はもっと進んでいただろう。
 
 店主の下働きやお手伝いの位置付けにある「使用人」に対して、一人前のコンサルタントとして、さらには将来の事業承継の対象として「育成」していく動機は働きにくい。したがって、とりあえず忙しいからと内務担当の女子パート社員を入れ、それで事足れりとしているプロ代理店も多い。経営者たる店主自ら営業を行い、「使用人」がその下働きをやっていたのでは、代理店の付加価値のメニューが拡充するわけでもなく、いささかも実業の体をなさない。「マネジメントとは、営業する社員を使う人のことを言う」のだ。
 
 コンサルタントビジネスの発展において、「人を使う」ポイントは、主に2点ある。
 1つは、経営者は終生、変わり(成長し)続けなければならないということだ。1人雇用したら1人分、2人なら2人分、10人なら10人分にふさわしい器に経営者自らが変わっていかなければならない。まず社員を1人雇用したら、やがて必ず店主営業からスタッフ営業に転換し、自らはマネジメントに専念(マネジメント転換)するという意志を明確にすること。この強い意志決定こそ、実業転換の原動力となるのだ。「人を使うということは、すなわち、自らを変えること」と認識すべし。実に、この点こそ、社員の定着に直結するのだ。自らを変えずして、社員を「使用人」として使いやすいようにいつまでも鋳型にはめようとするならば、社員は辞めるか、契約を持ってケンカ別れで独立する。「ウチはよい社員に恵まれない」とこぼす経営者の多くは、社員の資質の問題よりも、実は経営者としての資質の方に問題がある。
 
 2つ目のポイントは、お客に対面してコンサルティングするスタッフ社員が保険コンサルタントとしての労働価値(働きがい)を実感できるように育成し、従業員満足(ES)を重視した経営を行うことである。労働価値を感じていないスタッフがお客に接して、当該顧客のCSが高まるはずもない。まさに「コンサルティングビジネスにおいてはESなくしてCSなし」なのだ。
 
 通常、内務担当として女子社員の雇用からスタートするケースが多いが、保険コンサルタントの業務に男女の性差による適正など存在しない。もちろん経営上、内務・経理担当者は必要だが、コンサルタントの機能・能力において、例えば事故処理は男性が適しているとか、生保営業はねばり強い女性が適しているといった既成の思いこみは払拭すべきだ。きめの細かい事故処理で顧客の信頼を得ている女性代理店は多数存在するし、生保営業の男性優績者も多数存在する(女性は粘り強いから生保セールスに適しているとよく言われるが、粘りさえすれば生保がとれるなら、誰でも優績者になれるはずだ)。
 
 店主営業からスタッフ営業への転換をめざして社員すなわち「人財」を雇用したのであるから、1人ひとり着実に立派なコンサルタントとして仕上げていかねばならない。まず導入時のモチベーション(動機付け=目標意識を植え付ける)が肝心で、自社の経営(発展)ビジョンと保険ビジネスおよび保険コンサルタントのカルチャー、付加価値、発展性を教育し、一定年数就業・勉強すれば段階的に専門のコンサルタント(例えばスタッフが業務分担している場合、リスクマネージャー=主に損保の営業・保全管理・事故処理等、ライフプランナー=主に生保の営業・証券分析・保全管理等、ファイナンシャルプランナー=主に資産運用・税務・相続・継承相談等)などの基本的な職能を身に付けられることを明示する。すなわち育成方針の明示し、損保試験、生保試験、FP資格等の取得スケジュールを織り込んで一定期間ごとに着実にランクアップしていくことをモチベートする。これがすなわち能力開発による社員定着化のシナリオともなる。

 単に忙しいから雇用したでは、使われるほうがたまらない。経営者とスタッフは互いに人生の貴重な時間の多くを共にするパートナーであるから、仕事を通じて自己実現が図られなければ貴重な時間をあたらムダに費やすことになる。経営者は社員の人生の貴重な時間を使っていることに、常に思いを至さなければならない。
 
 当初段階のスタッフは、店主・妻の営業または内務補佐を主な任務としつつ、生損保の基礎知識・基本動作を段階的に習得させる。半年または1年ごとにアセスメント(@担当業務の業績評価Aコンサルテーション能力等の職能評価B就業状況等の就業評価)を行い、給与・賞与等の評価ベースにするとともに、目標への進捗度合いを確認させ、さらなる成長へのインセンティブを与える。この際、本人にも自己評価させ、公平で納得ずくの評価を行うことが肝要。現実論として報酬のインセンティブは賞与に反映させる場合が多い。
 
 このような社員に対する対話・教育・躾け・動機付け・評価の実践を通じて、店主自身がマネジメントに脱皮していくための訓練ともなるのだ。現状では、コンサルタントづくりで最も大切な職能評価のテーブルが曖昧なケースが多く、これではコンサルタントの育成はできない。店主の金太郎飴を生み出さないように、最も身近な第3者で店主の長所も短所も知り尽くしている保険会社の担当社員に常々謙虚にアドバイスを求めよう。若い人に謙虚になれれば、経営者として一人前だ。保険会社の担当社員とすら円滑なコミュニケーションがとれないようでは、従業員の育成などとてもできない。
 
 仮りに内務担当として女子社員を雇用した場合でも、余りに性急に負担をかけてはいけないが、公平な評価を前提として、日常の更改対応はもちろんのこと、第3分野商品のテレセリングやパンフレット(パターン話法)セールスの効く商品の生損保多種目追販取組みなど、可能な範囲で早期に営業戦力化した方が生損保フルサービスの基本動作が身につくし、コンサルタントとしての仕事のやりがい(労働価値)が実感できるので、定着する。成功を褒め、評価し、長所を伸ばすこと。一見、スタッフをコキ使っているように見える(スタッフにビジネスチャンスと責任を広く与えると、自発的によく働く)代理店ほど、スタッフは定着している。
 
 反対に、失敗が心配で営業をまかせようとせず、内務専任にしておくと、ルーチンワークの場合は会社の給料の多寡や福利厚生等の待遇面だけがスタッフの最大関心事となり、定着しない。失敗を恐れていては人は使えない。スタッフにはコンサルタント(営業戦力)としての手応えを実感させること。なお、日常の店主による教育のほか、保険会社の研修、パソコン研修、FP等の外部研修も積極的に受けさせ、社員の能力開発にコストをかけること。FP資格、社会保険労務士、証券外務員資格、そして中小企業診断士などの資格取得にチャレンジさせ、社員の専門特化を進めることで、顧客に対するサービスメニューが多様化する。営業専任・内務専任といった区分けは止め、全員営業・全員専門コンサルタントを基本とすべし。
 
 経営転換期において、店主自らのマネジメント転換への意識改革ができれば、業容拡大に伴い、2人目以降のスタッフ雇用はほとんどオートマチックに行うようになる。採用は男女の分けへだてなく、知識欲、対面営業などコンサルティングビジネスにおける適正で判断する。この仕事は「人物」が売り物なのである。
 
 時として長年損保専業でやってきた店主が、生保営業専任者として国内生保会社の営業職員経験者の採用を意図するケースもみられるが、プロ代理店の生保販売は、代理店独自のブランドで専門のコンサルタントがオーダーメードの保障設計を行うところに付加価値があるのであり、保険会社の看板でセールスを行ってきた営業職員が必ずしも即戦力になるとは限らない。コンサルタントは付加価値を売るのであって、単に売りたい保険をセールスするものではない。ただ、外資系生保のライフプランナーや、ライフプランニングの企画経験者などは、オーダーメードのコンサルティングセールスの基礎があるので、即戦力になり得る。いずれにせよ、店主が生保販売の経験なくして、スタッフの公正な労働評価、職能評価はできない。
 
 ※生保併売のポイント=生損保フルサービスを本格展開。主にスタッフはTRMサービスの中で個人損保既存客への追販、あるいは生保・第3分野の純新規客の獲得にもチャレンジ。店主はトップセールスとして経営者の個人契約、事業継承、役員退職金プラン等の法人契約の販売を本格化し、日常の営業行動からマネジメント重視に切り替えていく。手数料平準払いにより主にスタッフ経費(パート主婦の配偶者控除額103万円、女性フルタイム社員地方により200〜300万円)に充当。また、L字払いの場合は株式会社資本金、店舗拡充費用、IT拡充費用等の必要なものに充当。

 
 〈企業経営期以上〉TRMからALMサービスへ拡大せよ!
 <損保手数料6000万円・挙績5億円前後の層>小売店経営から企業経営へと完全に転換する。手数料の大きい生保法人契約の取り扱いが増えるため、損保と生保の手数料割合は6:4〜4:6(経営方針により一様ではない)と、前段階に比べ総じて生保手数料のウェートが増す。「企業経営期」「企業経営拡大期」「企業経営発展期」へとステップアップしていく中で、損保4割前後、生保3割前後、金融サービスの手数料やRM・FP等のコンサルテーションフィーなどが3割前後の収益構成も展望できる。すなわち主に負の手当を主体とするTRMサービスから、バランスシートマネジメントサービス、ALM(資産・負債総合マネジメント)サービスへと段階的に脱皮していく。

 「企業経営拡大期」(損保手数料1億2000万円・挙績10億円前後)以上の経営規模になると、保険業法の複代理のネックが解消すれば専属総代理店として域内他代理店をマネジメントしたり、あるいは他地域への自力での多店舗展開、他地域の大型代理店と持株会社を設立し、広域的なネットワーク拡大も可能となる。金融機関代理店・企業代理店・大型整備工場・税理士など他の有力チャネルとの提携(分担)も本格展開できる。「企業経営発展期」規模になると、先行投資余力があるので、別部門での経営コンサルティング、ブローカー、通販事業などの多角化も可能となる。

 「企業経営期」「企業経営拡大期」にかけて、生損保・金融商品フルサービス体制を段階的に整備する。保険・金融フルサービスにより顧客単価が大幅にアップすることから、プロ代理店念願の粗利1億円(生損保等合計手数料収入)のバーをクリアし、零細企業経営からいよいよ中小企業経営の段階に入る。社会的にも経営コンサルティングビジネスとしての体をなす段階である。「企業経営拡大期」以降の営業体制は事業保険の増大に伴い法人部門(ホールセールス)と個人部門(リテールセールス)に分かれる。
 
 「企業経営期」「企業経営拡大期」へと業容拡大に伴い、経営者(事業方針・マーケティング戦略策定、予算方針策定、人材育成・導入方針策定、有力パートナー顧客への対応・トップセールス等担当)→役員格のゼネラルマネージャー(各部門の統括責任者、各部門の予算・業務目標の設定と評価、労務管理・人材育成・導入、トップセールス等担当)→法人営業部門(保険営業・金融営業)・個人営業部門(保険営業・金融営業)・事務経理部門・システム部門・事故処理部門等のライン責任者を配置する。保険営業・金融営業部門の責任者はシニア・コンサルタントの職能を果たし、所管部門の予算・業務目標の設定遂行、所管スタッフ個々の目標設定と育成・評価など、コンサルティング業務全般を管理する。

 この段階に限らないが、インフラ整備・要員導入においては営業体制の拡充を第一義とし、IT化の徹底により事務・保全関連担当者は必要最小限の要員にとどめる。部門ごとに担当者の責任と業務分担・スケジュールを明確化し、重複作業を極力なくさなければならない。「企業経営拡大期」以上の段階では保険会社のデータベースのみに頼らず、独自に名寄せした顧客管理データベースを構築し、1顧客に対する生損保・金融フルライン取引を達成する。各部門担当者間の対話・連携を密にし、常にスタッフ全員で顧客を囲い込む意識と動作の徹底を図ること。
 スタッフは分野別・部門別に配置、育成するが、スタッフの資格取得・研修(損保各社資格、生保試験、FP研修、証券外務員試験等)は可能な限り内務担当者含め全員共通して行う。
 
 大都市部などで市場特性を生かして生保営業に特化する場合、生保営業担当者はコンサルティングに時間がかかるため、証券分析・プランニング・見積もり作成などの業務をFP事務の位置付けで専任体制(やがて専任FPを複数配置し、金融商品を含め資産管理プランニングのための営業企画課として整備する)とし、外回りのコンサルティング営業担当と分けた方が時間の効率化が図れる。

 損保部門の事故処理業務もリスクマネージャーとしての正に基本動作だが、「企業経営拡大期」「企業経営発展期」へと発展するに伴い、自動車事故のみならず火災事故(地域不動産業者と提携しての仮住まい手配サービスなどを含む)、PL事故(弁護士手配サービス等を含む)等のクレームサービスをトータルに行う事故処理部門として体制整備する。
 
 一般企業の営業単位(1営業課)はスタッフ数10名程度でスタートするが、コンサルティングビジネスの保険代理店の場合「企業経営期」で3〜4名前後、「企業経営拡大期」で5〜6名前後、「企業経営発展期」で10名前後が1営業単位の目安となる(マーケット、顧客層により異なる)。
 
 「企業経営期」から「企業経営拡大期」へと発展する中で、およそ社員数が10名前後になると、社員側からも発展ビジョンがボトムアップされてくる。社員1人1人に毎年の自己目標を設定、表明させ、営業取り組みも部門別の定例ミーティングで打ち合わせ、実践させる。社長が社員の日常の営業行動まで口を挟むようでは、企業マネジメントの体をなしていない。
 
 「企業経営期」以上は、POP広告に加えてメディア広告も本格的に実施した方がよい。新聞、ラジオのほか、テレビCFも地方局扱いだとキー局の人気番組のスポット広告が以外に安い料金で打てるものだ。広告宣伝費はコンサルティングビジネスにおいても必要経費である。

 いうまでもなく事業の継続発展を図るなら、事業継承は血縁、非血縁に関わりなく、マネジメント適性で選択すべし。子供に継承を考えている場合は、第3者にコンサルタントそしてマネジメントとしての適性がある否かを判断してもらうとよい。
                        

【プロ代理店の発展段階】
損保の売上高=手数料区分、 損保平均手数料水準=12%で試算(取り扱い種目の構成で異なる
育成期 開業〜年間手数料400万円以下(損保挙績3000万円×平均手数料12%=360万円)経営内容:@顧客数=軒数・契約件数300件 A旧種別=普通〜上級 B経営=個人 C陣容=店主のみ D営業拠点=自宅併用店舗 E事務処理・顧客管理体制=部分的IT化 F主な課題(先行投資)=顧客数拡大、得意技・得意種目確立→フルライン化習得へ、自立経営への早期移行、研修生OBはノンマリン一般5000万円必達が要件

自立期 600万円前後(挙績5,000万円)〈プロの経営としてスタート:年限を区切った発展ビジョン策定〉@300軒・400件 A上級 B個人または法人(有限) C店主または妻内務 D自宅併用または専用店舗 E部分的または完全IT化(HP開設) F顧客数拡大、生損保総合RM習熟、顧客来店型店舗開設、IT化推進
成長期 1,200万円前後(挙績1億円) @600軒・800件 A特級(一般)格上げ準備 B法人(有限) C店主+妻内務+パート D自宅併用または専用店舗 E完全IT化(HP、生損保併売顧客管理システム構築) F生損保総合RMの励行、法人化・IT化完了、正社員(スタッフ・コンサルタント)雇用準備、顧客来店型対応の励行、コアコンピタンス(プロの保険技術)の確立、
※ここで先行投資をしないと生業で終わる。協業・合併も選択肢。
経営転換期 2,000万円前後(挙績1億5,000万円〜2億円) @1,000軒・1,400件 A特級(一般)または特級(一般)(工場) B法人(有限、株式) A社長+正社員+パート D来客対応主体型の営業店舗 E完全IT化 F人的基礎整備=正社員(スタッフ・コンサルタント)の雇用・育成を中心とする企業インフラの確立、就業規則・労働評価体系・福利厚生の整備、店主営業からマネジメントへの脱皮、高付加価値型マーケティング(総合資産管理)の実践、※協業・合併も選択肢。

企業経営期 6,000万円前後(挙績5億円) @3,000軒・4,000件 A特級(一般)(工場) B法人(株式、有限) C社長(経営全般)+役員(営業担当)+正社員5名前後  (パート含む) D来客対応主体型の営業店舗または自社(自宅兼)ビル E完全IT化(IT専門社員育成) F担当部署(専門)別スタッフコンサルタントの育成・配置、後継マネジメントの育成、合併・買収・協業化による事業規模拡大、多店舗化または多角化の選択、独自経営の場合はスタッフののれん分けによるネット ワーク化も検討、保険をコアにした中小企業へのバランスシートマネジメント修得、金融サービス取り扱い着手
企業経営拡大期 1億2,000万円前後(挙績10億円) @6,000軒・8,000件 A特級(一般)(工場)B法人(株式) C社長(経営全般)+役員(営業部門別、複数)+管理職+社員10名以上(担当部署別配置) D自社ビル、テナントオフィス、特定地域に自前の支店設置または買収・協業化による多店舗化 E完全IT化(IT専門社員配置) F多角化(別法人でのブローカー、FPサービスなど本業関連新事業)準備または開始、マネジメント育成,担当部署別スペシャリストの育成、金融商品習熟、個人客への総合資産管理・中小企業へのバランスシートマネジメント・ALMサービス励行
企業経営発展期 6億円前後(挙績50億円)〜 @3万軒・4万件 A特級 (一般)(工場)  B法人(株式) C社長(グループ経営統括)+役員(営業・子会社・内務担当別、複数)+社員50名以上(店舗数により異なる)  D本社ビル並びに各地に複数の営業拠点展開、関連企業形成E完全IT化(本支店間ネ  ットワーク構築)F総合リスクマネジメント・ビジネスとして、バランスシートマネジメント・ALMサービス励行、多角的事業を多拠点展開(将来的には、専属総代理店、ブローカー、直販部門、クレームアジャスター、経営コンサルティング、介護マネジメント会社等の企業群が考えられる)

                                          

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