●新代理店手数料体系と代理店のリストラ(2000年9月8日)
 〔二重コスト構造の改善と手数料水準の引き下げに着手〕
 戦後半世紀余、算定会料率の下で価格競争が行われなかった損保業界がいま、だぶついた経費で過去乱設した販売網のリストラに迫られている。98年7月の新料率算出団体法施行で、任意自動車保険、火災保険、傷害保険の主力家計保険の価格自由化が行われたが、二年間の経過(激変緩和)措置により今年6月末までの間、実際はさしたる価格競争はみられなかった(例えば、損保最大種目の任意自動車保険のうち、新商品の人身傷害補償保険を組み込んだ完全補償型商品で微細な価格差がみられたが、売り上げの約80%を占めるSAP、PAP、BAPは旧算定会料率水準で横並びだった。2000年7月から完全自由化がスタートしたばかり)。
 ビッグバンとは日本市場で国際標準の競争を行うことだ。大量の非稼働・非自立代理店の帳簿(収支明細書)付けまで行う日本社独特の営業担当社員という日本損保独特の種族を持たずに、かつ熾烈な価格競争を勝ち抜いてきている欧米トップクラスの保険会社の事業費率は25%程度で、代理店手数料水準は保険会社との収益分配(プロフィットシェアリング)の加算手数料含めおおむね10〜15%程度だ。世界最大手損保の米国ステートファーム社の自動車保険手数料は加算(収益分配)込みで約9%である。
 長らく業界加重平均の算定会付加率を堅持し、消費者にコスト転嫁を行ってきた日本社の多くは40%前後の事業費率だ(最大手で36%台)。最大種目の自動車保険の価格は保険原価の純率約60%、経費部分の付加率約40%の構成であり、規制上限に張り付いている代理店手数料は約18%(SAPの種別平均)である。欧米に比し異常に分厚い付加率を元手に大量の代理店業務ができない非自立・副業的代理店を乱設し続けてきた結果、会社の給料で働く営業担当社員が手数料を支払っている代理店の業務の相当部分をこなさなければならないという、世界に例を見ない堅牢な二重コスト構造が出来上がってしまったのである。また、戦後一貫して続いた右上がりの車両販売台数の伸びが損保会社の種目タテ割りの単純営業を形作り、かつ過分に厚い自動車保険手数料率が、単品更改主体で粗利の7、8割が自動車保険手数料に傾斜しているような今日の足腰の弱い損保代理店を醸成したといって過言でない。
 各社ともIT投資でむしろ社費がかさむ中、2001年4月の代理店手数料体系の各社別化(同年3月末で業界ノンマリン代理店種別別・種目別手数料制度廃止)を契機に、スピードを上げて手数料ファンドの圧縮と二重コスト構造の解消に取り組まなければ、業界内の生き残り競争どころか、国内損保なべて消費者の支持を失うだろう。保険ルールの国際標準化が急速に進む中、21世紀は巨大外資に市場を席巻されるかもしれない。
 〔新代手体系の概要〕。
 損保各社の新代理店手数料体系はまさに経営・営業戦略の根幹となるもので、それぞれの会社の経営規模、ディーラー代理店・企業代理店・金融機関代理店・専業代理店など各チャネル占率の相違、生保・金融クロスマーケティング戦略の濃淡などにより、図柄の描き方は異なる。
 各社に共通する検討要素を括ると、「スケールメリット拡大」「業務(事務)効率向上」「顧客対応力向上」「成長性」を重視した体系となる。主に大手損保各社でほぼ煮詰まっている骨子は、@自社ノンマリン一般種目の挙績(取り扱い保険料)規模別手数料にファンド全体の約7割がさかれる。会社ごとに5段階ないし10段階の自社種別(認定)制度を設定、配分格差を設ける。最下層は現行の半分程度まで圧縮する。自社との当初取引額の少ない他社有力代理店の乗合に関しては、取引拡大へのインセンティブを高めるような種別運用上の配慮を講ずるケースも考えられるが、代理店システムインフラ整備の遅れている中小損保はもはや人情論や行政介入を期待してはならない。チャネル特化を断行して手数料体系上の具体的な防衛策を構築すべきだ。
 残り約3割のファンドを当面、ノンマリン一般種目挙績1000万円(高いバーを検討している会社で1000万円)以上の代理店を対象に、A事務処理効率・代理店オンライン計上、B主に自動車保険の損害率、C自社取引シェア(専属優遇)、D増収率などの要素で評価、分配(加算)する。
 当初の検討段階ではファンド一割圧縮の線で各社算盤をはじいていたが、スタートラインが近づき互いの目論見が見えて来るにつれ、おおむね4〜5%の圧縮幅に収斂しそうな気配だ。
 代理店種別・資格制度運営に関する金融庁事務ガイドラインは3月末で廃止されるが、経営不安を招来するような過度の手数料競争を防止する目的で、2003年3月末まで事業方法書上で各社の代理店(手数料)制度の主旨について経過措置として認可制が適用されるため、民民の契約としての手数料完全自由化はそれ以降となる。したがってこの間、有力代理店の期待に反して、各社の手数料水準の大きなバラツキはあまり起こらないと思われるが、もとより商品・価格の個別化が進み、また手数料評価テーブルの細分化・多様化も相まって、各社間の手数料体系の比較自体が困難となろう。 つまり、有力代理店の乗合・移動には手数料体系のあり方よりは、営業活動を左右する各社の商品開発力やブランド力、代理店経営の盛衰に直結するIT支援力が大きな要素になる。
 新代理店手数料体系の実施に際し、いくつかの問題点や検討すべき課題も残されている。まず手数料の引き下げが確実な代理店の場合、新体系での委託契約の再締結を拒否するケースも考えられる。このような場合、民法上は保険会社が通知後、6ヵ月経てば一方的に解約することも可能だが、代理店から生活権をタテに提訴される懸念もある。したがって、完全自由化までの2年間は新旧体系の委託契約が併存する可能性もあるが、業界種別制度も事務ガイドラインも廃止されるわけで、いわば何ら裏付けのない委託契約が残るというのもおかしな話になる。
 なお、保険会社相互間、親子会社間の販売代理が大幅に緩和される方向にあり、とくに生損保クロスマーケティングを推進する大手は、親損保会社による販売管理の一体化が可能になることから、生損保挙績合算での手数料体系の構築を視野に入れている。
 〔リストラ代理店の焦点と受け皿の問題〕
 二重コスト構造の改善は第一義的に過去乱設した非自立代理店のリストラを徹底することだ。代理店数は99年度末57万店余で、生損保相互参入で生保営業職員の代理店登録が一挙に増加した96年度末62万店余に比べ、5万店余減少したが、現場レベルで全体の約5割を占める挙績(取り扱い保険料)100万円未満の最下層の整理の緒に付いたばかりだ。
 大手損保各社の代理店挙績分布をみると、新手数料体系の基準挙績としている1000万円以上の層が全体の25%前後、自立代理店の目安となる3000万円(平均手数料率15%の場合、手数料収入450万円)以上で括ると昔も今も10%台でしかない。生損保合計挙績1億円以上のクロスセルの中核プロ(専業)代理店層はせいぜい0・1〜0・2%程度に止まる。生保への取り組みを強化している会社でも生保募集人登録をしているのは自社代理店の25%程度に過ぎない。生保も損保も共通して規制業種ならではのコスト垂れ流しの構造である。IT習熟の可能性や金販法・消契法の説明義務の履行をも勘案すると、当面、現態勢の7割程度がリストラ対象となる。
 今後の代理店リストラの焦点は営業担当社員の負担が最も大きい専業の1000〜3000万円の層と、兼業の1000万円前後の層だ。これより下の層はほとんど活動していないので、実際は社員の手間もあまりかからない。非稼働な整備工場代理店などは一般代理店とは分離して自賠責取扱店として別体系で集約してもよいし、とくに100万円未満の最下層はいつでも一気にリストラできる。
 中小損保では手間のかかるセミプロ層の受け皿として、クラスター業者(協業事業体)との提携を模索する動きもある。これは本来、独立した専門家が経営資源の共有化などスケールメリットを追求するために協業する組織で、米国保険業界で70年代以降急速に増加、玉石混交ながら約250社あるといわれる。商品の個別化が進んでいる米国では乗合代理店が一般的で、乗合の数の多さで代理店が評価される。保険会社の価格競争で事業費圧縮が進む中、代理店の取り扱い最低保険料のバーが引き上げられ、委託契約を解除される代理店が増えたことから、独立(乗合)代理店の生き残りの協業事業として定着した。メンバー代理店間での統合により挙績と乗合先を確保し、メンバーのリタイア時には満期所有権(更改権)を買い取って貰える。本部が各保険会社と交渉し委託契約を結び、本部を通して各代理店に手数料が支払われる一方、メンバーはシステム・宣伝・事務経費などを分担する仕組み。
 日本でも商品の各社別化が進み、乗合代理店が一般化すれば、こうした協業事業が普及しよう。現状では、@保険会社は圧力団体を嫌う、Aクラスター本部のメンバーに対する管理・指導体制が不透明、B日本の商慣習では代理店が客をつかんでいる権利である満期所有権(更改権)が認められていない、C専業の乗合代理店の数が極めて少なく、代理店側の保険会社に対する帰属意識が高い――などの問題がある。日本では手間のかかる層のアウトソーシングなり、リストラ代理店の受け皿としてそれなりのニーズはあろうが、単に負の遺産を集積したのではそも協業事業として成り立たないから、結局、リストラ代理店の契約買い取り機構になる可能性が高い。保険会社本体が直接自社契約の買い取りはできないから、ダミーの別会社でこの種事業を行わないとも限らない。契約者の許諾、説明義務を含め消費者保護の面から、監督当局の早めの対応が必要だ。
(「週間金融財政事情」2000年8月21日号の筆者稿に加筆)

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