●どうなる?銀行による保険窓販(2000年9月4日)
 この秋から冬にかけて、金融審議会で銀行における住宅ローン関連商品(質権設定の長期火災保険、信用生命保険)以外の保険の窓口販売について議論される予定で、その後省令改正作業へと進む。保険業法で禁止規定がすでに措置されている圧力募集の議論に戻らぬよう、専ら消費者の有利性と利便性の向上に目を向けて広範な取り扱いを認める必要がある。規制緩和で業態間競争を促進し、保険会社の体質を強くするためにも。
 無駄な建前論を抜きにしてズバリ銀行の保険窓販に関する本音は、@「信用第一」でお金の預貸業務を行う本体が販売代理する以上、銀行に苦情・説明リスクが持ち込まれる可能性のある補償ないし保障重視型の商品や事故処理が伴うような商品は基本的に避けたい、A銀行のリテール営業のマスチャネルは窓口であり、カウンターセールスが前提となる。金融商品販売法・消費者契約法で販売者への説明義務が法定されることもあって、コンサルティングが必須の死亡保険(定期付終身保険、定期保険、終身保険など)はもとより、カウンターセールスで売りやすい第三分野商品(ガン保険、医療保険など)も含めて保障内容の説明リスクが絡むので扱いにくい、B将来的に富裕層市場でのプライベートバンキングサービスの中で、資産家、中小企業経営者向けに節税対策(損金計上)・資金繰り(資産計上)プラン、役員退職金プラン、従業員福利厚生(ハーフタックス)プランなどで手数料の厚い死亡保険を本体FP行員が取り扱う考えはあるが、死亡保険のコンサルティングセールスの習熟には時間がかかる、C銀行顧客のうち黒字となっているのは20〜30%で、リテール営業の大半は赤字であり、元来、薄利多売に慣れている、D損保のレディーメードの自動車保険はカウンターセールスには適しているが、事故処理など苦情リスクが銀行本体に持ち込まれる可能性がある。これらの苦情リスクが伴うものを取り扱う別働体代理店は引き続き存続する――という諸事情と銀行本体のシナジー効果を考えれば、当初段階は個人年金保険のしかも定額商品の取り扱いが本命で、その他さほど説明・苦情リスクが伴わない貯蓄型商品を品揃えしたいところだろう。
 保険版投資信託の変額年金も顧客ニーズが期待できるものの、かつて変額保険問題に直面した経験のある現場の支店長クラスの腰が引けている。とりあえず定額年金・貯蓄型商品のカウンターセールスからスタートし、投信で案外早く株式型の販売に踏み切ったように、プライベートバンキングサービスの中で本体FP行員による変額年金、保障性商品の取り扱い、そして第三分野商品の窓販へと歩を進めよう。
 生保会社もわずか一割の低ローディング商品を営業職員チャネルでさばくわけにはいかないから、年金商品の窓販はむしろ期待している。生保にとって厄介なのは銀行が販売代理に止まらず、年金市場を狙って生保子会社の設立へと走る懸念があることだ。年金分野はほとんど銀行の本業といってもよく、年金専業保険会社なら2、30人の社員でも立ち上げられるだろうし、変額年金を手がけることで運用収益も期待できる。年金保険で銀行系生保子会社がひとたび味をしめたら、いつまでも年金業務だけに立ち止まっているはずもない。やがて生保会社として一人歩きするだろうと、既存生保はきをもんでいるのだ。
 リスクの絡む損保商品は引き続き別働体代理店が主役で、適正化ルールの規制緩和で本体からの紹介行為も全面的に解禁されるため、むしろ別働体の水面下でのビジネスチャンスが今後拡大する。本体の窓販でしいてシナジー効果のあるものと言えば積立商品、ローン関連の火災保険、保証保険、所得補償保険程度か。窓販延長のATMサービスとなると説明表示が困難で申し込み手続きに時間がかけられないため、保険の取り扱いは現実的でない。せいぜい定型パターン化された傷害保険の取り扱いくらいが目一杯だろう。
(「週間金融財政事情」2000年8月21日号の筆者稿に加筆)

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