●いよいよ損保の価格が完全自由化(2000年7月)
 任意自動車保険、火災保険、傷害保険の料率自由化の経過措置期間が2000年6月末で終了、7月からいよいよ損保の価格の完全自由化がスタートした。98年7月の新料率算出団体法の施行(自由化)以降、大手損保を中心とする上位会社はすでに完全補償型の新商品の発売を契機に独自料率の適用に踏み切っているが、事業費率の高い中小、生保系損保、外資系損保などの多くは、2年間の経過(激変緩和)措置期間中、全社平均値に基づく旧算定会料率を使用することができた。
 現在、主力の自動車保険でいえば、人身傷害補償保険を組み込んだ完全補償型商品以外のSAP、PAP、BAPの旧算定会料率商品が全体の約80%を占めているから、これからが自由化本番となる。。
 ちなみに保険料は@保険の原価である純保険料と、A社費・代理店手数料などの経費部分の付加保険料で構成されている(料率自由化間もない現在、およそ自動車保険で@60%A40%の割合。価格競争が進んでいる欧米の大手損保会社の場合@75%A25%程度の割合で、経費部分のウエートが小さい)。確率計算で算出される予定損害率に基づく純保険料率については、料率算定会が引き続き各社の実績に基づく参考料率(アドバイザリーレート)を損保各社に提供するが、付加保険料はそれぞれ自社の事業費実績値に基づく予定事業費率で算出しなければならない。原価部分は各社の損害率に大きな格差があるわけではなく、自動車保険では車両保険での盗難損害、自然災害損害で損害率が悪化しており、来年度は引き上げられる公算が大きい。
 したがって、自由化時代の損保会社の価格競争力は付加保険料部分がポイントになる。経過措置が終了した現在、金融庁は自社の事業費率からかけ離れた付加保険料率は認可しない方針だ。価格競争に負けて破綻会社が出た場合、監督責任が問われることは必定で、当局としても認可時点で価格の横並びを認めることはできない。
 99年度決算値で単純に言えば、東京海上と安田火災が36%台、住友海上が37%台の事業費率で、理論上、低い付加保険料率の設定が可能だ。以下、おおむね分母の売り上げが小さくなるにつれ事業費率が高くなり、中小損保は40%前後、開業間もない生保系損保では50%前後と、上位社に比べ、高い付加保険料率の設定を余儀なくされる実態にある。
 ただし、損保会社の売り上げの大半を占める自動車保険では上下12・5%の範囲料率となっており、認可上の価格が高くてもこの範囲内で販売価格を割り引いて設定することは可能だ。しかし、この範囲を超える事業費率の格差がある場合、販売価格で上位社と争うには、補償内容を狭くして保険原価を圧縮するか、あるいは、リスク細分料率で保険原価の安い無事故契約者に傾斜販売するかの二者択一とならざるをえない。範囲料率で割り引けば戦える損保会社でも、無理な価格競争は体力の消耗につながる。認可を厳格にすれば、それは事業費率の高い損保会社にとって「死刑宣告」に等しい。
 そこで、金融庁が事業費率改善の合理化計画と抱き合わせで、当面、上位社と戦える裁量的な価格を認可するとの見方もある。価格競争上有利な立場にある東京海上、安田火災は早くも10月から独自の新型自動車保険を発売する。中小・生保系・外資系損保会社にとってついに厳しい生き残り競争が始まった。(マネージャパン2000年9月号掲載の著者稿に加筆)。

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