●生保転換制度のメリット・デメリット(1999年11月25日)
 
(1)消費者団体の要請で導入
 生保の転換制度は、「死亡保障ニーズの増大への対応」を指摘した保険審議会答申を受けて、昭和50年11月に導入された。消費者団体(横浜コンシューマーズクラブ等)による下取制度導入への要請に応えたものである。その前年49年には、主契約の保険期間の中途で定期保険特約を付加して死亡保障額を増額する中途増額制度が導入されている。
 それまでの貯蓄目的の養老保険主力の時代から、死亡保障を重視した定期付養老保険主力の時代へと移る中で、複数の保険に加入しなくても合理的に保障が増額できる制度として、@同じ保険種類のまま死亡保障を増額する中途増額制度と、Aいま加入している保険の積立金(責任準備金)と積立配当金を下取り価格(転換価格)として、新しい保険種類に転換(契約内容の変更)できる転換制度が導入されたもの。
 とくに、転換制度のメリットといえるのは、昭和47年以降実施されている特別配当(主に、通常の配当では精算しきれない含み益等の剰余金を、満期・死亡・解約によって長期の契約が消滅したときに最終精算するもの。平成2年頃まで10年以上経過後の契約消滅時配当として積立金に対し最高65%もの高い割合で払われていたが、最近は含み益の減少により、15〜17年以上経過後の消滅に対して最高32〜38%の割合で払われている=責任準備金比例のミュー配当率の標準例)を受け取る権利が転換前契約から転換後契約に引き継ぐことができる(経過年数が通算される)点にある。  

(2)貯蓄型保険の「同型転換」で行政指導
 このように、本来、転換制度は「新しい保険種類に特別配当の権利を引き継ぎながら保障が増額できる」という合理的な制度だが、昨今、運用益の低下によりバブル当時まで続いた5%以上(最高6.25%)もの予定利率がまかなえない逆ざや状態となり、平成5年度4.75%、6年度3.75%と予定利率が相次ぎ引き下げられる中で、生保会社の逆ざや負担を契約者に転嫁することを狙った政策的な転換が行われたため、平成8年1月、大蔵省保険一課長名による「予定利率引下げ局面における対応について」の検討依頼文書(指導文書)が生保協会に発出された。
 その趣旨は@養老保険から養老保険、終身保険から終身保険、個人年金保険から個人年金保険といった本来の目的にそぐわない貯蓄型保険の「同型転換」を自粛すること、A追加契約等と転換契約を比較して契約者に提示すること、B高い予定利率(保険料割引率に相当)の主契約を残して、定期特約付加による中途増額制度の説明資料を作成し、契約者に説明すること―の3点。行政指導後、生保会社は中途増額の説明資料を作成したものの、現場レベルでは実際にほとんど使われなかった。
 なお、保障型保険の定期付終身保険から定期付終身保険(最近は高倍率の定期付終身に年金払定期特約・生前給付定期特約等を付加したタイプが主力だが、いずれも基本的な保険種類は同じもの)の「同型転換」は、保障を拡充するものとの名目でいまなお行われている。

(3)乗り換え防止で「割安な準有配当商品への転換」も登場
予定利率は逆ざや額の拡大に伴い、平成8年度2.75%、平成11年度2.0%(有配当)、2.15%〜2.5%(5年利差配当。会社により異なる)とさらに引き下げられたが、最近目立つのは加入後2〜3年の新しい契約を対象にした定期付終身保険の「同型転換」である。 これは既契約の予定利率がすでに低い水準にあり、かつ保障性商品であるため、国内生保会社にとって「逆ざや転稼」効果はほとんどない。その目的は不況下、保有契約高の純減に悩む国内生保が、主にカタカナ生保や損保系生保への契約移動(乗り換え)を防止するとともに、死亡保障の増額を企図して行っているものといってよい。
 平成8年、11年の予定利率の引き下げに伴い、契約者の保険料負担増加による新規契約の減少を防止するため、高倍率の更新型定期付終身保険(利差損を定期特約部分の費差益、死差益で穴埋めするための商品といってよい)を主力とする国内生保会社は、定期保険部分の保険料を大幅に引き下げてきた(定期保険の低料化)。また、予定利率が低く割高感がある反面、配当魅力が薄れてきた三利源有配当商品を売り止め、相対的に予定利率が高く割安な準有配当商品への切り替えを進めてきた。
 これらにより、転換時の割引も勘案すると、中途増額するよりも、低価格の定期特約を厚く付加した高倍率の新しい定期付終身保険に転換したほうが実質的に保険料が安くなるケースや、継続するよりも転換したほうが保険料が安くなるケース(転換制度では通常、転換前契約より転換後契約の保険金額あるいは保険料が上がらなければならないので、仮に同じ保険金額で転換してみた場合の理論値)も出てきた。(下記の試算例参照)

★試算例
〈既契約〉有配当・10年更新型定期付終身保険(保険金額3000万円/主契約終身部分200万円) 男性30歳平成8年加入(現在3年経過)保険料65歳払済月払(口座)保険料1万1024円

〔「同型転換」と「中途増額」の保険料比較〕
@平成11年(33歳時)に、上記既契約を10年更新型定期付終身保険(保険金額4000万円/主契約終身部分200万円)に同型転換した場合、当初10年間の月払(口座)保険料は1万2865円。
 65歳まで同額更新すると、払込保険料総額は963万768円。
 65歳時のキャッシュバリュー(解約返戻金)は147万2600円。
A平成11年(33歳時)に、上記既契約に定期特約1000万円を中途付加(増額)した場合(中途付加する定期特約は既契約の更新時に保険期間を合わせなければならないので、40歳まで7年、50歳まで10年、60歳まで10年、65歳まで5年きざみとなる)、当初7年間の月払(口座)保険料は既契約部分1万1024円+中途付加定期部分2870円=1万3904円。
65歳時まで同額更新すると、払込保険料総額は996万3096円。
65歳時のキャッシュバリュー(解約返戻金)は135万3600円。

〔同じ保障額での「同型転換」と「継続」の保険料比較〕(理論値)
@上記既契約を同額・同型転換した場合、定期特約部分の低料化により月払(口座)保険料は1万243円
65歳まで同額更新すると、払込保険料総額は742万1688円。
 ※通常、「同額転換」はできないので理論値。
A既契約をそのまま継続した場合、月払(口座)保険料は1万1024円。
65歳まで同額更新すると、払込保険料総額は784万176円。

(4)法改正し説明義務を規定

 資産運用難で特別配当が圧縮されている中、原則論でいえば、予定利率の高い既契約を低い新規契約に転換すれば実質的に保険料がアップするのでメリットは無い。ただし、上記のように、平成8年度以降の保障型生命保険の同型転換については、死亡保障の増額を望む契約者にとっては保険料負担の軽減が図れるケースもあり、十把ひとからげですべての同型転換が悪いという批判は的を射ていない。また、予定利率上昇局面では、転換制度は有効なリフォーム手段となる。
 最近の転換をめぐるクレームで、消費者・契約者側から見た最大の問題点は @営業職員の説明不足、A契約者が自己責任で有利不利を判断するための既契約の予定利率等に関する生保会社のディスクロージャーの不備、を含めた情報提供の不足にある。
 金融監督庁は、平成11年10月、転換制度に関する情報提供の拡充を趣旨として、保険業法施行規則(総理府令・大蔵省令)を改正、公布した。したがって、改正規則施行後はそこに盛り込まれた説明義務を怠れば保険業法違反となる。

★業務運営に関する措置(金監庁
 保険業法施行規則第53条を改正し、保険会社に以下の措置を講じることを義務付ける。
 保険契約の転換に際して、生命保険募集人または損害保険募集人が保険契約者に対し次に揚げる事項を記載した書面の交付により説明を行うことを確保するための措置。
 @新規契約および既存契約に関する保険金額、保険料、保険期間その他重要な事項(当該事項の書面への記載方法は、原則として転換前後の内容を対比する方法による)。
 A保険契約者が既存契約を継続したまま必要な保障内容の見直しを行うことができる事実およびその方法。

★事業方法書等の審査基準

 第53条を改正して新設する上記に揚げる書面を保険契約者が受領した旨を署名または押印により確認する手続きが明確に定められていること。

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