保険業界再編の展望(2000年5月)
●保険業界はこう変わる
 保険業界の再編は、ようやくその第一幕が開いた段階に過ぎず、あらかたの完成予想図が見えてくるまで少なくともあと5年前後の期間を要する。生損保会社はビッグバンによる日本市場での国際標準の競争激化、IT革命、少子高齢化の進行という21世紀へのメガトレンドに対応しつつ、当面、@業界内での生き残り競争を始め、A国内保険会社への第三分野(医療、ガン保険など)解禁と巨大外資による買収攻勢、B銀行の保険窓販解禁と総合口座への参加、C投信、401k、アセットマネジメントなど金融ビジネスへの進出、D保険相互会社の株式会社への転換(株転)、といった高いハードルを超えていかなければならない。
 10年後の保険業界の姿は、@ごく少数の国内単独保険会社、A国内保険会社連合(合併)、B銀行傘下の保険会社、C生保傘下の損保会社、D損保傘下の生保会社、E一般事業会社傘下の保険会社、F外資傘下の保険会社、G外資単独保険会社、H国内保険会社傘下の外資保険会社、などのグループにほぼ類別されよう。これを着地点として、今後、さらなる損保会社の合併、巨大外資による買収、生保相互会社の株転→統合、銀行による買収、そして合併保険会社同士による大統合といったプロセスを踏んでいくことになるのだ。
 当面、業態間の枠を超えた激しい保険・金融サービスミックス(総合口座)の陣取り合戦の中で、受け身の保険会社としては、どの金融グループに籍を置いて生き残るかが喫緊の命題となる。置いてけぼりをくうと巨大外資の買収攻勢にさらされる。現在の体力で、自前の資源とブランドで総合口座の主役が張れるのは、極論すれば、生保で日本生命、損保では東京海上の両リーディングカンパニーだけといってよい。
 2000年1月に安田火災がアイエヌエイひまわり生命を子会社に、また、4月には日本生命が同和火災・同和生命を傘下におさめるが、生保部門の規模拡大を急ぐ東京海上がどの既存生保会社を買収ないし資本・業務提携するかが当面注目される。将来、日本生命や東京海上が欧米の巨大保険・金融資本と手を組む可能性もある。およそビッグバンとは内外市場の垣根が取り払われることと理解すべきであり、今後、内外保険資本のどのような組み合わせがあってもおかしくない。
●生保業界の再編
 銀行の不良債権のように簡単には償却できない重い逆ざや負担を抱える国内生保業界の再編は、まずは外資による破綻保険会社の買収(アルテミス→旧日産生命のブリッジ会社あおば生命、GEエジソン生命→東邦生命)、経営不安のある中小株式会社生保への救済的買収(アクサ生命→日本団体生命、エトナ・インターナショナル→平和生命)からスタートした。国内資本による救済的買収(クレアモントホールディング→大正生命)の例もある。
 いかんせん主要国内生保の大半が相互会社形態のため、大規模な再編は株転後の話になるが、国内生保同士の発展的な合併の姿を見るには、今後5〜10年の歳月を要するかもしれない。体力のある大手生保といえども各社1000〜3000億円超もの逆ざや額というマイナス要因を抱えており、株転→上場後の市場評価がどうなるかは火を見るより明らかだ。仮にいま、金利水準が引き上げられたとしても、運用収益が安定的な拡大基調にのるには5年前後の期間が必要になる。
 株転を断行し、そこそこの株価がつくとしても、大量発生する端株および端株未満への現金交付による整理や、株転→増資による安定株主の確保などにかかるロードは極めて大きい。
 国内生保の中でも比較的早期に株転→持ち株会社方式による統合に踏み切る可能性があるのは、すでに勝ち組同士で全面提携している安田生命と富国生命、太陽生命と大同生命の組み合わせだ。中でも富国、大同は逆ざや額も少なく、高い市場評価が期待できる。
 顧客数が1500万人で逆ざや額も3600億円(99年11月時点の年度末見通し数値。以下同)にのぼるガリバー日本生命は、マイナス面の大きい株転の意志はほとんどないとみてよい。すでに大規模金融機関である日本生命は、保険口座の展開等で他の金融機関を自らの傘下に吸収することがあっても、生き残りのために合併する必要はないからだ。さくら銀行と提携し、ネットバンク、個人ローン会社を立ち上げるが、あくまでもニッセイブランドの総合口座(ニッセイ保険口座)を運営する。
 銀行系の総合口座へのポジションでは、みずほグループに第一生命、朝日生命、安田生命+富国生命が関わっているが、第一生命が2400億円、朝日生命が1300億円の逆ざや額を抱えている中で、4社による株転→大統合は現実論として考えにくい。
 大手生保の株転は基本的に利差益が拡大し逆ざや額が減少する傾向が見えてきてから現実的な話になるが、それを待っていたのではビッグバン下の金融大再編に乗り遅れてしまう懸念もある。
 社員(契約者)数1100万人の米国最大手生保相互会社のメトロポリタンライフが2000年4月に株式会社化を完了、新株公募を行った。日本では保険業法の改正で端株一括売却制度が組み込まれたが、メットライフの場合は信託方式で900万人(4月現在)の株主管理を行っている。社員に分配される全株式はトラストに対して発行される。社員にはトラストの持ち分権が与えられ、トラスト中の株式の売却、買い増しが可能。反面、株主総会関連文書は送付されず、重要案件でない限り議決権もない(ニッセイ基礎研レポート2000年6月号「米国生保の株式会社化をめぐる動き」)。身動きのとれない国内大手生保にとって、このような株転コストの軽減策を自律的にクリアしていく必要があろう。
●損保業界の再編
 損保業界は相互会社2社を除きすべて株式会社で、長年、統一商品・統一価格で一体的な運営を行ってきたため、業務プロセスはどこも一様で、合従連衡しやすい。 98年7月からの主力家計保険の自由化により、価格引き下げ・担保拡大競争が一気に激化し、最大種目の自動車保険の損益が悪化、これが引き金となって大手・中堅損保の合併が進んでいる。
 金融ビジネスの強化を急ぐトヨタの政策を背景に大東京火災と千代田火災、三和銀行系の総合口座フィナンシャル・ワンに参加する日本火災と興亜火災がそれぞれ2001年4月に合併。さくら銀行と住友銀行の合併を受けて三井海上と住友海上が同10月に合併する。東京海上のトップシェアは変わらないが、三井・住友連合が安田火災を上回って2番手、大東京・千代田連合が4番手、日本・興亜連合が5番手になる。これらの大手損保はさらなる合従連衡を企図しており、業界勢力図が一変する可能性もなしとしない。
 戦後の新設4社のうち、元受保険料ベースで積立保険のウエートが80%超という生保会社型のポートフォリオだった第一火災が逆ざやを抱えて破綻した。他の1部中堅損保と下位損保は事業費率が高く価格競争、コスト競争の面で生き残りは困難だが、大手の合従連衡の中に入ることもできない。セコム(東洋)のように他業の傘下にはいるか、あるいは外資や生保・銀行の直販子会社になるか、生き残りの選択肢は極めて限られている。

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